日本人は老後の生活費に不安 国によって異なる老後の考え方 幸福なリタイアとは?

 総務省が昨年の9月18日に発表した、65歳以上の高齢者の人口は3,461万人、総人口に占める割合は27.3%だった。少子高齢化でこの数字は年々増え、リタイア世代の比率が上昇している。高齢化や老後の意識について海外と比較し、より良い老後の暮らし方について探ってみたい。
 
◆老後の生活安心度、日本は下から3番目
 Pew Research Centerが18歳以上を対象に調査した2013年の結果によると、21ヶ国中「高齢化は問題」と回答した率は、先進国中でもっとも高齢化が進む日本がトップで87%。続いて韓国(79%)、中国(67%)、ドイツ(55%)、スペイン(52%)の順となる。もっとも“心配していない国”はエジプトで23%。そしてインドネシア(25%)、続いてアメリカ(26%)となる。

 同じ調査で「老後の生活費は充分か」とも尋ねているが、「充分」と答えた人が79%で最多だったのは中国、続いてブラジル(77%)、ニカラグア(74%)、南アフリカ(71%)、ケニア(71%)、パキスタン(67%)となり、ようやくアメリカが63%で7位に登場する。一方、回答が一番少なかったのはロシアで20%、続いてイタリア(23%)となり、日本は下から3番目で32%の回答者しか「老後の生活費は充分」と答えていない。

 経済大国となった中国が「老後の生活費は充分」とするのは納得できるが、その後アメリカの前までは裕福とは言えそうもない国が並んでいる。楽観的な国民性や社会に古くからある相互扶助の仕組みなどが背景にあるのだろう。その意味では、一度先進国の仲間入りをすると、扶助の精神や仕組みを失うこともありえ、経済の成長が鈍化することで、老後の厳しさはいっそう強まってしまうのかもしれない。

◆老後に対する心の備え
 生命保険文化センターが18~69歳にたずねた調査結果によると、我が国の夫婦2人の「ゆとりある老後生活費」は月額35万円、日常生活がなんとか送れる最低資金は22万円という回答になった。年金支給額だけでは不足であり、先の「老後の生活費は充分か」に対する回答率の低さと連動してそうだ。老後資金は可能な限り若いうちから準備する努力をするとして、ブラジルやニカラグアの人たちのような心の持ち方や、金銭以外の老後への備えが重要なのかもしれない。

 メディア企業ダウ・ジョーンズの運営するマーケットウォッチが全米経済研究所のレポートと、その著者にインタビューした記事によると、リタイア後は幸福度も健康度も向上するという。健康面はリタイア後に長い時間をかけて改善されていき、幸福面では他のライフイベントよりも持続性がある。多くの人はリタイア後により幸福になり、健康上の問題のいくつかも改善が認められるようになるというのだ。

 フォーブス誌では、健康やお金に関する公的メディアnextavenueヘのインタビューなどから、幸福なリタイアについて、その心構えと事前準備を次の9つに示している。
①どこに住みそこで何を望むかを考える:出費の心配の少ない地域や落ち着いた場所、そこでどんな生活を送りたいか。
②夫婦の場合はお互いに何を大切にするかを話し合う:親しい友人との時間を互いに大切にする、夫婦で出かける時間を持つなど具体的に。
③リタイア後の収入プラン:リタイア前にプランする人は半数ほど。事前のプランで資金的な問題が生じてもあまり心配しない。プラン上では過剰にコストを見積もっていることもある。
④可能ならばリタイアの時期をあらかじめ決めておく:計画的にリタイアできた人ほど幸福な生活を送っているという調査結果がある。
⑤可能なら何かしらの仕事と健康を維持する:仕事やボランティアに従事する有意義な時間を持ち、よく食べ、よく眠り、週に3度の運動と社会とのつながりを心がける。
⑥リタイア前、フルタイムからパートタイムの仕事に切り替えていく:金銭的にはデメリットもあるが健康的なリタイアに効果的。
⑦新しいものや情熱を傾けられるものを学ぶ:若いころに興味があった絵や楽器演奏など。
⑧リタイア後の生活に合わせたゆるいスケジュール管理:自由な時間の多さは幸福度とは比例せず、それをいかに管理できるかで決まる。
⑨子供や孫と会う:相手が忙しくても、なにか方法を見つけ出してでも会うこと。彼らもそれを望んでいる。

 このようにリスト化すると、リタイア前もその後もそれなりに忙しく充実して見えてくるから不思議だ。「老後」よりも「リタイア」という言葉を使うだけでも気持ちが前向きになってくるようにも思える。お金の問題はさておき、気持ちの持ち方やリタイア後の目標などから考えるのがよいのかもしれない。

Text by 沢葦夫