10年で4.6倍、英国の“お洒落な”ヴィーガンブームに専門家ら警鐘“セレブとは環境が違う”

 英国では過去10年間でヴィーガン人口が360%増加したことが、業界団体『Vegan Society』と『Vegan Life』誌の最新報告書で判明した。ヴィーガン(Vegan)は、従来のベジタリアンよりもさらに厳格な菜食主義者。肉魚のみならず、卵や乳製品など動物由来の食品も一切口にしないため、“絶対菜食主義者”“純粋菜食主義者”と和訳されることが多い。Ipsos MORI が英国内の1万人を対象に実施した調査によれば、「ヴィーガン全体の約半数が15~34歳の若年層で、その88%が都会に住んでいる」(英テレグラフ紙)。そして、その多くが“お洒落だから”という理由でヴィーガンを選択しているそうだ。しかし、栄養学の専門家らは、長期的な健康に悪影響を及ぼすおそれがあるとして警鐘を鳴らしている。

 近年日本でも、糖質制限やヴィ―ガニズムなどを“健康法”として取り入れる人が増えているようだ。一見極端とも思えるこれらの方法を、専門家の判断を仰がないまま安易にライフスタイルに取り入れてよいものだろうか?

◆ハリウッド俳優やモデルなどセレブの影響が大きいと指摘
 前述のテレグラフ紙は、記事の冒頭で栄養学者による批判的意見を紹介。英国栄養士協会会長Catherine Collins氏は、「インスタグラムやグウィネス・パルトローなどの影響を受けてヴィ―ガニズムが急増しているが、“自分自身が何をやっているのか理解していないまま”ヴィ―ガニズムを選択した人々はそれによって健康を損なっている」と述べ、ヴィーガンの多くはあまり深く考えず“ファッション感覚”で肉・魚・乳製品を抜いていると分析した。

 英インデペンデント紙もまた、有名人の影響に言及している。同紙は、ヴィ―ガニズムを実践している有名人として、テニス世界王者のノバク・ジョコビッチや、ボクシングのヘビー級チャンピオン、デビッド・ヘイなどの名前を挙げた。人一倍健康に気を配り、肉体を酷使するトップアスリートも実践しているとなれば、ヴィ―ガニズムを取り入れたがる人が増えるのも無理はない。

 倫理的な理由でヴィ―ガニズムを選択する場合もある。同紙は「レオナルド・ディカプリオが製作に携わった映画『カウスピラシー(Cowspiracy)』などのドキュメンタリーの影響で、食肉生産が環境にネガティブな効果をもたらすことへの懸念が高まりつつある」として、単なる健康志向だけがヴィ―ガニズム流行の理由ではないと指摘した。

 しかしCollins氏は、栄養学の専門家としての見地から「ヴィーガンの食事では、タンパク質やその他の必須栄養素(B12やカルシウム等)を十分に摂取できないリスクがある。植物性食品からは、これらの栄養素を乳製品ほど効率的に吸収できない」とヴィ―ガニズムの危険性について注意を呼び掛けた(テレグラフ紙)。

◆“不健康なまでの健康志向”新型の摂食障害オルトレキシア
 ヴィ―ガニズムが台頭するにつれて、最近ではオルトレキシア(Orthorexia)と呼ばれる新しいタイプの摂食障害も注目を集めている。オルトレキシアとは、“健康的な食事に対する不健康なまでの過度な執着”。健康的な食品だけを摂取しなければならないという強迫観念にとらわれる心の病のひとつだ。

 英デイリー・メール紙は昨年12月、オルトレキシアに苦しんだ女性の体験談を紹介した。Carrie Armstrongという35歳の女性は、イギリスのテレビ局 のITVの『The Morning』という番組に出演した際に、「ウイルス感染から回復するために生の野菜・果物だけを食べる“ロー・フルーツ&ベジタブル・ダイエット”を開始した。しかしその18か月後、生理は止まり、歯はボロボロに。髪も抜け落ちてしまった」と当時の体験を語った。

 加工食品・精製食品を避け、生の果物や野菜を奨励する“クリーン・イーティング”と呼ばれる健康法は、フード・ブロガーらを中心に近年流行している。
「グウィネス・パルトロー、アン・ハサウェイ、ジェシカ・アルバなどのセレブリティも(クリーン・イーティングの)実践者として有名だ」(デイリー・メール)。

 同紙では、今年3月にもオルトレキシアを注目すべき社会問題として取り上げている。3月の記事でも、やはりセレブリティへの憧れが背景にあると指摘。一部の心理学者や栄養学者らは、「セレブリティがスポーツジムで撮影したゴージャスなセルフィ(自撮り)を掲載したインスタグラム・アカウントが、(一般の人々に)危険な影響を与えている」と考えているそうだ。

 セレブリティの場合は一般人とは異なり、専属の医師やトレーナーにいつでも相談できる。同紙は、時間もお金もふんだんにかけられる彼らの行動を安易に真似すべきではない、と強調している。

 以前、日本の農水省推奨の『バランスガイド』が海外メディアで好意的に取り上げられたが、同ガイドラインのように、何事もバランスよくほどほどに行うのが心身の健康にとって大切なのではないだろうか。

Text by 月野恭子