“知ってほしい”“踏み込まないで” 被災地のダークツーリズム、意義と求められる配慮

 東日本大震災で大惨事となった福島第一原発の事故は世界を驚かせ、原発や立ち入り禁止区域のショッキングな映像が、当時メディアを通じ広がった。あれから5年を経て、住民が避難し廃墟となった地域では、「ダークツーリズム(災害、戦争など、歴史的悲劇に見舞われた場所での観光)」が注目を浴びているが、その在り方には賛否がある。

◆ダークツーリズムはトレンド
 AFPによると、福島の原発事故で荒廃した場所がダークツーリズムのホットスポットとなり、年間2000人以上が訪れる。原発から8キロしか離れていない浪江町やその近隣の町では、地元のボランティアガイドが廃墟となった町を案内するツアーを実施している。参加者は、「報道とは違い、現実は何も変わっていない」、「被災者の怒りやフラストレーションが分かる」といった感想を述べるという。

 その一方で、愛する者を無くした悲しみが今も癒えない人々は、かつて住んでいた町に観光客がズカズカと足を踏み入れるのを、複雑な思いで見ているという(AFP)。デイリー・メール紙は、倫理に反するのか、そうでなければ、いつどのように訪れるのが適切なのかという問題があるとし、「ダークツーリズム」はセンシティブで、意見の分かれる話題だと指摘する。

 多くの旅行専門家は、観光客がいくつかの大切なルールを守る限りは、「ダークツーリズム」の存在意義はあると主張する。英国旅行代理店協会のショーン・ティプトン氏は、早すぎる訪問は迷惑となるが、時間を経てコミュニティの傷が癒え復興し始めるとツーリズムはそこに取り込まれ、傷ついた経済を支えるのに必要になり、不適切と思い遠ざかることこそ、問題をいっそうひどくすると述べる。旅行ガイドブック『フロマーズ』のエディトリアルディレクター、ポーリーン・フロマー氏は、場にそぐわない自撮りなどは禁物と指摘する。リスペクトの気持ちを持ちコミュニティにお返しする気持ちがあれば、「ダークツーリズム」は奨励するべきと述べている(デイリー・メール)。

◆追悼と商業行為の境目
 ユーロニュース(EN)によると、世界的トレンドであるダークツーリズムを、福島第一原発で実施することを目指すグループがある。その中心が作家の東浩紀氏だ。福島第一に関しては、現在はメディアツアーのみが許可されているが、同氏は福島の原発事故は人類全体にとっての問題だとし、世界中が事故の大きさとそれがもたらした被害について知ることが大切だと主張している(EN)。

 東氏は、福島にとって復興が何を意味するのかよく理解されていないために、同氏のプロジェクトによって地域に多くの訪問者が訪れると説明しても、人々はそれを検討することさえできなかった、と考えている。しかし被災地の反応はさまざまで、後世に記憶を残すことは大切と歓迎する声もあれば、「観光」という言葉を使い、被災地を商業化することへの懸念を表す人もいるという(EN)。

 英セントラル・ランカシャー大学ダークツーリズム調査研究所のフィリップ・ストーン氏は、「ツーリズムは商業的行為で、ダークツーリズムもそうであろう」と述べる。もっとも商業化と追悼の境目はあいまいで、それがダークツーリズムを作る側と消費する側の倫理が前面に出るところだとし、業界には、悲劇の歴史や遺産をどのように解釈し記憶するかについての指針も必要だと述べている(デイリー・メール)。

◆ダークツーリズムとしての福島とチェルノブイリ
 ダークツーリズムで大きな人気を集めているのが、1986年に事故を起こしたウクライナのチェルノブイリ原発だ。原子炉の爆発は数十人の直接の死因となり、長期の癌による何千人もの死を引き起こしたとデイリー・メールは説明する。キエフのある旅行代理店は毎年1万2000人の観光客を案内しており、教育的かつ原子力の危険を知らせるものだとし、倫理的な問題はないと述べている。

 ENは、多くの専門家が福島の事故による放射性降下物はチェルノブイリに比べてわずかであったと述べていること、また時期尚早ではあるが、福島県立医科大学の調査で、事故による放射線被ばくが、甲状腺がんや他の有害な健康リスクを近隣住民にもたらしたとは考えにくいとされたことを踏まえ、果たして福島第一がダークツーリズムに適しているのかと疑問符をつけている。

Text by 山川 真智子