海外が報じた日本 10月6日~10月14日

1.サマリー
 10月2週目、日本の政治・経済についての主な記事は39記事だった。
 外交については、中国財務相らがIMF・世銀総会@東京を欠席するなど、日中関係改善の見通しが立たない現状が懸念されている。経済については、IMFが日本の金利上昇リスクを警告したことが取り上げられた。企業のニュースについては、ソフトバンクのスプリント買収が注目された。また、山中教授がノーベル医学生理学賞を受賞したことも大きく報道された。

2.日本の外交
 引き続き日中・日韓関係の行方が注視されている。他には、日本がミャンマーの延滞債務を解消し、新たな円借款を開始するなど積極的な姿勢であることも報じられた。

<日中関係>
 Financial Timesは、日中の対立の背景と影響を報じた。尖閣諸島の領有権をめぐる日中の対立は、中国船が周辺海域を航行し、一歩間違えば全面戦争になりかねない政治的に危険な状況だとみている。経済的には、反日デモや不買運動の影響で、中国での日本企業の業績は悪化している。さらに東京で開催されるIMF・世銀総会に中国の閣僚や主要銀行トップが不参加を発表した。これについては、指導部交代期のため日本に対して弱腰とみられるリスクは非常に高く、欠席に伴うデメリットを上回るためだろうと分析した。ただ、世界2位の経済大国として果たすべき責任を、内政問題が阻害していることを非難している。日本については、経済界が政府に不満を抱いている一方、政治家は強気の姿勢だと報じた。例えば前原経済財政担当相は「日本製品の売上低下は中国経済にも悪影響が出る」とコメントしている。
 The Wall Street Journalは、日中の対立が中国企業に与える悪影響を報じた。例として、日本行きの旅行客の減少で、中国の航空会社の経営が危ぶまれていると指摘。領土問題の早期解決を最も期待している業界の一つであるとした。
 The New York Timesは、反日デモによって被害に遭い重傷を負った中国人男性を取材した。日本車を運転していたこの男性は、暴徒に車を包囲され、止めようと車から降りた所を暴行された。同行していた妻がなんとか助け出し病院へ搬送したが、この間警察の介入はなかったという。NYTは、暴徒たちは愛国心の服をまとった犯罪者集団だと断じている。

<日本車の中国販売減少>
 日中対立による被害が顕著な業界の一つが、日本の自動車業界である。トヨタ、ホンダ、日産は、9月の中国での販売台数の急激な減少を発表した。前年同月比で、トヨタは49%、ホンダは40%、日産は35%下落したとそれぞれ発表した。各社の株価は急落した。
 Financial Timesは日本企業の株価低下に焦点を当てた。中国での販売減に加え、IMFが経済成長見通しを下方修正したことも影響し、自動車メーカーに加え鉄鋼メーカーの株価も下落した。一方、中国の自動車メーカーである一汽轎車やBYDの株価は上昇した。
 The New York Timesは、日本の自動車メーカーが、10月末まで中国市場向けの製造スケジュールを大幅にカットしたと報じた。ただこれは反日デモの影響だけではなく、日本のメーカー各社が製品化計画などで誤りを犯したという指摘もしている。実際、中国自動車市場では三大メーカー(GM、フォルクスワーゲン、ヒュンダイ)がシェアを拡大してきた。反日デモ以前の今年1~7月、中国で最も売れた10車種もこれらのメーカー製品であり、日本の自動車メーカーは新モデルの発表が遅いと指摘した。

<日韓関係>
 Financial Timesは、日本の財務省が韓国との通貨交換協定の拡大措置終了を発表したことを報じた。双方は「竹島問題とは関係ない」と発言しているが、この問題の影響と見ている。なお韓国は、国債が格上げされ外貨準備も豊富にあるものの、貿易依存度が高いため、国際的には高いリスクを抱えるとみられていることを指摘した。
 The New York Timesは、城島財務大臣と朴宰完企画財政部長官が会談を行い、領土問題をめぐる外交的衝突から経済的損失を抑えることで合意したと報じた。具体的な内容ではなかったものの、冷え切っている日韓関係を改善するよう協力し合うことで話し合いはまとまったと報じた。
 The Wall Street Journalは、朴長官が日中韓3ヶ国の関係改善を図る意向と報じた。朴氏は、経済的な絆を深めることで領土や歴史をめぐる対立を少しでも緩和できれば有益であると発言し、11月の東アジアサミットにおいて、3カ国で貿易協定の会談を行う意向だと報じた。

3.日本の経済
 日本の経常収支が改善という明るいニュースはあったものの、全体的には厳しいニュースが多い。IMFが日本の金融機関に警告したことや、円高の対処に苦しむ日本の姿が報じられた。
 Financial Timesは、大量の国債を引き受ける日本の金融機関に対し、IMFが警告していることを取り上げた。日本はGDPの2倍以上という負債を抱えるにもかかわらず、安定性への期待から世界の資金の逃亡先となっており、歴史的な低金利になっていると紹介。ただ、主な原因は欧州からの資本逃亡であるため、もし欧州危機への対処が成功し、日本が経済政策を誤ると、資金が引き上げられ、国債の利回りが一気に上昇する可能性が高いと分析した。IMFは、リスク評価などによって事前に対策を立てることが重要であるとしている。
 The Wall Street Journalは、前原経済財政担当相が円高の是正に積極的な姿勢であることを報じた。アメリカのサポートなくとも単独で為替介入を行う意向を示し、インフレ目標を達成できていない日銀への圧力強化も示唆している。さらに外債購入(円安効果がある)も提案しているが、日銀は否定している。WSJは、通過問題を所管しない前原大臣のこうした発言を、長期間の円高に対する日本の危機感の表れと分析している。城島財務相も、G7(財務大臣・中央銀行総裁会合)にて円高懸念を表明している。ただ、単独での介入は実効性などの面でリスクも大きいと指摘している。

4.日本のビジネス
<ソフトバンク、スプリント買収>
ソフトバンクが米携帯3位スプリントの買収を発表した。
 Financial Timesはソフトバンク孫社長の実績や今後について報じ、リスクも大きいが競争力強化につながる可能性もあると前向きに評価している。
 The New York Timesは、スプリントの財務体質改善、モバイル決済など顧客サービス充実の可能性という明るい側面に触れた。ただ、スプリントの株価は11日、14%以上上昇したが、ソフトバンクの株価は12日東京午前の取引で15%下落したと指摘。投資家は相乗効果に懐疑的であると報じた。
 The Wall Street Journalは、この取引には多くのハードルがあると指摘したが、成立すればAT&Tとベライゾンの寡占状態にある米携帯市場が変革するかもしれないと報じた。

5.その他
<山中教授ノーベル賞>
 山中伸弥教授が、サー・ジョン・B・ガードン教授とともにノーベル医学・生理学賞を受賞した。
 山中教授は2006年、ガードン教授の研究を基盤に、iPS細胞(各部位に分化する前の幹細胞)化を、4つのタンパク質の注入で可能なことを実証した。これらの成果により、再生医療や、遺伝病の発生メカニズムの研究、新薬の治験などが加速するものと見られる。
 Financial Timesは、山中教授の手法により、iPS細胞生成のために受精卵を用いる必要がなくなり倫理的問題を回避できるとして、「ノーベル倫理学賞にも値する」との称賛の声を伝えた。ただし安全面での確認はまだ取れておらず、引き続き研究が必要であるとした。
 The New York Timesは経歴に紙幅を割き、山中教授が外科医として「才能がないとわかった」あと、“大化け”したと報じた。山中教授は、それまでの常識にとらわれず「陰で笑われるような実験」を断行したことで、画期的な成果を挙げたと評している。
 The Wall Street Journalは、実際に研究成果を応用した臨床研究が、日本で来年にも行われるだろうと伝えている。

Text by NewSphere 編集部