海外が報じた日本 9月29日~10月5日

1.サマリー
 10月1週目、日本の政治・経済についての主な記事は31記事。経済に関しては日銀短観について、政治に関しては内閣改造が大きなニュースとなった。またビジネス面の記事も多く、日本の車産業の展望や起業・リストラについての特集記事が掲載された。

2.日本の外交
 9月半ばに激化した反日デモは落ち着いたが、中国大手銀行が日本開催のIMF・世銀総会に欠席するなど、未だ日中関係は不安定であり、海外各紙も注目している。今回は、中国の海外向け機関紙といえる「Global Times」の報道姿勢も取り上げる。

<日中関係>
 Financial Timesは、尖閣問題の背景と日本、中国、台湾の状況を分析した。尖閣諸島は日本、中国、台湾を繋ぐ重要な海域に存在し、解決しがたい構造的問題になっていると指摘した。専門家は、対立は双方にとって不利益のため、沈静化の道が開かれると予測している。ただ、問題の長期化は、ますます力をつける中国にとって有利に働くという予測もある。各国の思惑については、日本は中国とのビジネス関係への悪影響と、ヤギによる島の生態系破壊を懸念していると紹介。中国は、無人の島なら実効支配を力で奪えるという強硬論から、争っても双方メリットはないとする慎重論まで多様な意見があると紹介した。台湾は日本・中国との良好な関係を維持したいために葛藤していると報じた。
 The New York Timesは、中国がアジア1の経済大国とはいえ日本経済に依存し続け、日本を経済的に崩壊させれば不安定な中国経済も一緒に壊滅にするだろうと報じた。また中国への日本の投資がなくなれば、アジア景気の深刻な失速につながることにも触れている。しかし、尖閣諸島の主権に関しては両者譲歩することはないとの見方が強く、今後の日中関係がますます懸念されると報じた。
 Global Times(中国)は、中国の洪外務省副報道官が前原経済財政担当相を会談で論破したと報じ、洪氏の発言を多く掲載した。歴史的背景から見ても明らかに釣魚諸島は中国のものであると繰り返し主張し、日本に間違いを認めるよう激しく訴えている。また、中国は日本に関係を進展させる重要なチャンスを与えており、40年間築いてきた友好関係を無駄にしてはならないと主張していると報じた。

3.日本の経済
 日銀短観が前回調査より悪化していること、自動車販売が減少していることなど暗いニュースの一方、ミャンマーへ積極的に進出しビジネスチャンスを切り開く企業も紹介されている。

<日銀短観>
 日本銀行は、7-9月期の企業短期経済観測調査(短観)を発表した。これによると、大企業製造業の業況判断指数(DI)はマイナス3で、前回調査のマイナス1から2ポイント悪化となった。一方、非製造業はプラス8と高水準で横ばいとなった。海外各紙は、世界経済の減速と円高による輸出の不調が響いているとし、概ね悲観的だ。

 Financial Timesは円高の影響に焦点を当て、大企業製造業のDIが悪い原因の1つと指摘した。円高のために、アジア諸国のライバルに対し価格競争力が弱いと指摘した。デフレスパイラルを深めるリスクもあると報じている。一方、鉄鋼業界などでみられたように、円高が業界再編成の触媒として役立つ面もあることにふれている。
 The New York Timesは、日中経済の悪化を分析した。日本については、欧米の需要減退の影響を受け、円高傾向がそれに拍車をかけたと指摘した。改善のため日銀は追加金融緩和策を打ち出したが、アナリストは不十分とみて、厳しい状況が来年も続くと予測している。中国については、アナリストは「持続的な経済低迷」だとみていることを報じた。これは中国政府の利下げや財政出動の失敗を意味しており、11月の指導部交代後に打ちだされる政策に期待する声もあるとした。
 The Wall Street Journalも基本的には悲観的な見方だ。日銀短観の結果に加え、個人景況感が1年ぶりに悪化していることや、自動車部門の景況感が大打撃を受けたことも指摘している。一方、東日本大震災の復興需要の継続により、主要な非製造業指数がプラス8、12月見通しがプラス5であるなど、好材料にもふれている。

4.日本の政治
<野田内閣改造>
 10月1日、野田第3次改造内閣が発足した。海外紙は、財務相に就いた城島光力前国対委員長、文部科学相に就いた田中真紀子元外相に特に注目した。

 Financial Timesは、城島財務相に注目した。城島氏は初めて財務相に就任したためポリシーはあまり知られていないが、現政権の立場を継ぐとの見方を示した。短命内閣の人事に過ぎないというエコノミストの見解を取り上げる一方、国会対策委員長の経験を踏まえ、野党の思惑により遅れている赤字国債発行法案の可決に向けて重要な役割を果たすのでは、とも見ている。
 The Wall Street Journalは、数ヶ月以内に見込まれる総選挙のため、有権者に人気の閣僚を揃えたと報じた。報道では城島財務相と田中文科相に注目した。財政問題に精通していない城島氏が、東京で開催される国際通貨基金(IMF)・世界銀行年次総会などの国際会議で、どれだけ手腕を発揮できるかはわからないとしている。田中真紀子氏については、過去の経歴から敵も多いと紹介し、起用による人気回復は期待できないとみている。

<電力政策>
 2011年3月に起きた福島第一原発事故の影響により、あらゆる産業で変化が見られる。
 Financial Timesは、ウラン価格の下落を報じた。産出国は、得意先だった先進国が敬遠し始めたため、今後は原子炉の建設を考えている中国など新興国にビジネス戦略を変えれば光は見えてくると前向きに考えていると報じた。
 The New York Timesは、原子力に代わる新たなエネルギーの1つとして、地熱発電を紹介している。現在17機ある地熱発電所を増やし、巨額の投資を考えていると政府は発表した。発電所の設置場所は国立公園内が多く、環境保護などをめぐり、地元住民との緊張感は必然的に生じてしまうが、最近は理解や支援を得られるようになったと報じた。
 The Wall Street Journalは、電力消費を控える「アンペアダウンプロジェクト」について紹介している。省エネを心がける日本人は、原発事故を受けてより一層電力消費に敏感になっており、東京電力の顧客の半数がアンペア数を変更したと報じた。
※参考:アンペアダウンプロジェクト

5.日本のビジネス
 日本企業についてのニュースが、The Wall Street Journalを中心に多数報じられた。具体的には、「シャープ、ホンハイ出資にむけ銀行から資金確保」、「ソフトバンク、イー・アクセス買収」、「MUFG、飛行機リース企業買収」、「ソニー、オリンパス提携」、「セブンアンドアイホールディングス、利益下方修正」、「Jパワー、原発製造再開」などだ。特に多かったのは自動車事業についてのニュースだったため、下記にまとめる。

Datsun<自動車産業>
 The Wall Street Journalは、日産が「ダットサン」ブランドを復活させたことを報じた。「ダットサン」はアメリカのベビーブーマー世代に人気を誇った小型車である。当時、米国で第二の販売数を誇った「ダットサン」のブランド名を「ニッサン」に統一したことはいまだ最悪の戦略の1つとされている。2014年から新興国向けに販売する方針で、価格は3000~5000ドルの低価格帯である。
 背景として、インドのタタが3000ドル以下の車を販売したことに驚いた日産のゴーン社長が、2007年に「The 3000ドル Car」という秘密プロジェクトを立ち上げたと報じた。ただ、価格を3000ドル以内に抑えるには、アメリカで標準装備されている自動変速機やエアバッグを断念しなければならないことがわかった。その後、購入者が何を望み、何を省いてもよいか、インドでコスト削減のための詳細なデータを集めたと報じた。
 関係者は「新興国で低価格車を売っても成功しない」「ゴーン氏は既にリーフ(電気自動車)で大きな過ちを犯した。ダットサンでも失敗するかもしれない」と話す。一方ゴーン社長は、「現代的でフレッシュな」車を発表すると誓った。そして、新興国での全自動車販売の3分の1から半分の売上をあげると意気込んでいる。

ビジネスマン The Wall Street Journalは、トヨタ、ホンダ、クライスラーの乗用車販売が大幅な売上増を達成したと報じた。これにより、アメリカの自動車販売業は9月、過去4年半で最高の利益を上げた。一方、米国2大自動車メーカーであるGMとフォードは、トラック販売の落ち込みなどにより、昨年9月から低迷している。GMは最主力の「シボレー・シルバラード」の売上が19%落ちたことが響いたと指摘した。しかし両社は、10月のトラック販売増を見込んでいる。米調査会社オートデータによると、全体的に、アジア自動車メーカーの販売が米国自動車メーカーを上回った。

<起業/リストラ>
 The New York Timesは、大企業を辞職して起業し、新たなビジネスを模索する若者たちが増えていると報じた。アメリカに比べるとその人口はまだ少ないものの、彼らは支援者を求めてバーなどで開発したアプリや商品を紹介している。企業の中でアイディアを出すより、個人の方がスピードが早いと若手起業家は語る。企業から多額の投資を得ている例もあげ、前向きに評価している。
 Financial Timesは、日本の任意退職制度の大きな弱点は本当に必要な人材を失うことであり、企業が衰弱していく要因であると報じた。従業員に優しい日本の労働法は、外国企業の退職プログラムを参考に見直す必要があると指摘した。「窓際族」と呼ばれる社員の存在は生産性を阻害しており、改善が必要だと報じた。

Text by NewSphere 編集部