妊娠中の葉酸摂取:健康への影響に大きくかかわる「MTHFR遺伝子」とは

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著:Darya Gaysinaサセックス大学、Senior Lecturer in Psychology)

 一般的に、妊娠初期(~12週)や妊娠を希望する女性は皆、葉酸を積極的に摂取することが推奨されている。これは、葉酸が健康な胎児の発育に非常に重要だと考えられているためだ。

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 しかし最近、この「一律的な」アプローチが誤りであり、「一部の妊婦には葉酸に代わるもののほうが、メリットが大きい可能性がある」という意見が展開されている。具体的には、特定の遺伝子(人によって異なる)の型によって、体内での葉酸の活用方法が変わる可能性がある、と判明したのだ。

 ビタミンB9を表す言葉として使用されることが多い「葉酸」だが、大きく「天然葉酸塩(Folate)」と「人工葉酸(Folic Acid)」の2つに分けられる。前者は濃い緑色の野菜(ブロッコリーやほうれん草など)や乾燥豆類に多く含まれるビタミンB9の天然型だといわれる。一方、人工葉酸はビタミンB9の合成型で、サプリメントや加工食品にも添加されている。

 ほとんどの人は葉酸を多く含む食品を日常的に食べることで、必要量(1日200mcg)を摂取できるはずだ。しかし、この推奨量以上の葉酸が必要な人もいる。

 葉酸は健康な胎児の発育に非常に重要であることが知られている。そのため、妊娠中および妊娠を希望する女性は胎児の先天性異常のリスク防止のため、この2倍の量(1日400mcg)、場合によってはそれ以上の量を摂取することが推奨されている。
 
 通常の食事のみでこれだけの量の葉酸を摂取することは、ほぼ不可能だ。そのため、葉酸はサプリメントの形で妊婦に処方されることが多い。

 また、多くの国穀物に葉酸を添加する(「栄養強化」という)のも、このためだ。最近では、イギリスでも義務化しようという動きが出てきている。

◆「葉酸」を科学的に理解する
 葉酸の必要量は人によって違う(年齢や妊娠の有無)。実際に摂取している量も人それぞれで、足りない分はサプリメントで補うことができる。そして健康に必要な葉酸の量は、葉酸活性化遺伝子として知られる「MTHFR遺伝子」の活性度合いによっても変わる。

 その重要性を理解するには、まず我々の体の仕組みを科学的に知る必要がある。人間の遺伝子情報である「ヒトゲノム」には2万もの遺伝子が存在し、それぞれがDNA配列という形で特定のタンパク質を生成するための指令を出している。タンパク質は細胞を作ったり、脳を機能させたりと、我々の体内で重要な役割を担う。

 MTHFR遺伝子もそうした遺伝子のひとつで、「メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素」というタンパク質を作るための指令を出す。食物から摂取した葉酸は複雑なプロセスを経て体内で利用可能なメチル葉酸に変換されるが、この酵素はその過程で重要な役割を担っている。

 つまり、MTHFR遺伝子は体内で生成されるメチル葉酸の量を決定する。我々の体が適切な代謝を行うためにはメチル葉酸が必要で、それが不足すれば多くの深刻な健康問題につながってしまう。

◆MTHFR遺伝子とは
 人は誰でも一対のMTHFR遺伝子を持ち、ひとつは母親から、もうひとつは父親から受け継いでいる。それぞれの遺伝子は正常であることもあれば、DNA配列の変化によって欠陥が生まれ、生成されるタンパク質の量に影響が出ることもある。

 こうした欠陥は特別変異と呼ばれる。MTHFR遺伝子の特別変異で最も一般的なのが、DNA配列のひとつが変化し、生成されるタンパク質の活性を低下させるというもの。約10~15%の人がこの突然変異の影響を受けた遺伝子ペアを持つと言われている。

 これらの人々は体内のMTHFRタンパク質の活性が非常に弱く、体内で葉酸を「利用可能な形」に変換する能力が著しく低下し、体に有害なアミノ酸であるホモシステインの蓄積につながる恐れがある。

 MTHFR遺伝子変異は、ガン心血管疾患不妊症片頭痛胎児の発育障害のリスクを高める要因のひとつであることがわかっている。ほかにも、うつ病や統合失調症認知症のリスクが高まることも明らかにされている。

◆不足分の葉酸を補うべきか、否か
 MTHFR遺伝子に変異がある人は食品から十分な葉酸を摂取しなければ害が及ぶ可能性が高いため、天然の葉酸を多く含む食事がとくに重要だと言われている。

 同じ遺伝子変異を持つ人のなかでも、とくにアジア圏の人々はアメリカやオーストラリア、ニュージーランドなど、葉酸が強化された穀物を摂取する地域の人々よりもそれが深刻だという。しかし、だからといってMTHFR遺伝子変異を持つ人が食生活を変えたり、葉酸サプリを飲んだりすれば悪影響を回避できるかというと、それはまだわからない。それを知るには、さらなる研究が必要だ。

 最近の研究では、MTHFR遺伝子に変異のある妊婦が葉酸サプリ(人工葉酸)を大量に摂取すると、胎児(とくに初期)の脳の発達に意図しない悪影響を及ぼす恐れがあることも分かっており、注意が必要だ。いずれにしても、変異遺伝子を持つすべての人(とくに妊婦)にとって安全な葉酸摂取上限値を決めるには、今後の研究が重要な役割を果たすことになる。

This article was originally published on The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.
Translated by Conyac

The Conversation

Text by The Conversation