経済波及効果は9200億円にも 皆既日食で盛り上がったアメリカ

Peter K. Afriyie / AP Photo

 メキシコ、アメリカ、カナダの各地で8日、皆既日食が観察された。前回の2017年よりも良い条件で観察できるということで、皆既日食が見られる場所では訪問客が増えるなどの経済効果が見られた。

◆皆既日食の経済効果
 毎年観察できるわけではない自然現象を北米の人たちは待ちわびていたようだ。アメリカ航空宇宙局(NASA)は昨年7月、皆既日食の通り道を示した地図を公表した。その通り道はメキシコから始まり、テキサス、オクラホマ、アーカンソー、ミズーリ、イリノイ、インディアナ、オハイオ、ペンシルバニア、ニューヨーク、ヴァーモント、ニューハンプシャー、メインの12の州(人口にして3000万人)を通り、カナダ東部の一部まで続いている。

 テキサス州にある経済財務分析会社、ペリーマン・グループ(The Perryman Group)が今年3月に出した、皆既日食のアメリカにおける経済効果の試算によると、直接的な経済効果が16億ドル(約2500億円)、波及効果まで含めると約60億ドル(約9200億円)になるとのこと。直接的な経済効果としては、皆既日食観察を目的とした旅行(宿泊、移動、飲食)などが含まれる。普段はあまり観光地として知られていないような場所も、メディアで取り上げられるなどして場所が認知されるとともに、皆既日食イベントに便乗した観光客誘致が行われるであろうという前提を盛り込んだ。

 一方、コンサルティング会社のクラークストン・コンサルティング(Clarkston Consulting)も、皆既日食の経済効果に関する解説を公表。最長4分27秒も続いた皆既日食に合わせ、観光需要が盛り上がった事実を伝えている。たとえば、ヴァーモント州にある900部屋規模のホテルでは、皆既日食の前日の7日は満室予約を記録(前年同日は80件)。また、エアビーアンドビーの2月の発表によると、皆既日食の通り道にある民泊施設の検索数が1000%増えた。

 観光以外にも、レンタカー予約数、ガソリンスタンドの売上、小売事業の売上にも影響があった。たとえば太陽を安全に観察するための日食グラス(サングラス)は、平均単価が2ドル程度のものだが、1億ドル以上の売り上げがあったと見込まれる。また、ミレニアル世代に人気があるオシャレで安価なメガネやサングラスのD2Cブランドであるウォービー・パーカー(Warby Parker)は、4月1日から8日の期間中、ブランドロゴの入った日食グラスを店舗にて無料配布するキャンペーンを行い、マーケティング効果を狙った。

◆皆既日食の不思議な魅力
 『ヴォックス』は皆既日食観光の盛り上がりについて、「今逃したら一生見られないという皆既日食ならではの現象こそが、観光客を促している」というジェームズ・マディソン大学の心理学者の解説を紹介。同時に置き換えることができない体験だからこそ人々がお金を投じるという、別の心理学者の見方も示した。一方、日食の情報を集めたポータルサイト『グレート・アメリカン・エクリプス』を運営するマイケル・ザイラー(Michael Zeiler)は、ヴォックスの取材に対して、皆既日食を眺めることは非日常体験であり、数分間、突然暗闇に包まれるという体験によって別の惑星に立っているかのような気持ちになると語る。彼はこれまで6大陸で11の皆既日食を観察してきた「経歴」の持ち主だ。

 次回、アメリカで皆既日食が観測できるのは20年後の2044年8月だという。宇宙の現象を観察するというイベントは、分断するアメリカ国民を一つにする希少な機会だったのかもしれない。

Text by MAKI NAKATA