気候変動で旅行はどのように変わるのか 行き先、タイミング、移動手段

Andrew Medichini / AP Photo

 今年の夏といえば、ヨーロッパでは山火事が起き、バーニングマン・フェスティバルでは膝が埋まるほどの泥沼が発生するなど、旅行客が多くの異常気象に巻き込まれる事態となった。欧州連合(EU)のコペルニクス気候変動サービスによると、実際、今年は世界各地で史上最も暑い夏となった。

 9月6日発表の声明のなかで、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は「ドッグデイズ(夏の最も暑い時期)は、吠えるだけでは済みません、噛みついてくるほどです。この星は、史上最も暑い夏の煮えたぎるような季節に、ただ耐えるしかありませんでした。気候崩壊はすでに始まっています」と述べている。

 気象パターンが次から次へと変化するなか、旅行をするなら行き先や時期、移動手段はどうするか、そもそも旅行に出かけるかどうか悩むところだ。

 たとえば、ひどい暑さと人の多さにもかかわらず、最小限の空調しかないというのに7月にイタリアへ行くのは妥当だろうか。それとも旅行シーズンの「ピーク」を、もっと過ごしやすい秋や春にずらした方がいいのだろうか。

 観光地では、大きな被害をもたらす気候変動がこの巨大な業界にも猛威を振るう恐れがあることに気づきつつあり、懸念が広がっている。

◆暑い観光地の場合
 夏のスペインの海辺への旅行といえば、夢のような話だった。ところが今年、地中海を訪れた旅行客が目にしたのは悪夢だ。8月、スペイン沿岸部の都市バレンシアでは気温が過去最高の46度に達した。そのときスペインでは、公共のスペースにおける空調の使用に制限がかけられており、観光客はただ耐えるしかなかった。

 欧州委員会の共同研究センターが7月に発表したレポートでは、このような傾向は悪化するばかりで、暑さの厳しいヨーロッパ沿岸部の観光地は集客力を失うことになるだろう。このまま気温の上昇が続けば、ギリシャ、イタリア、スペインといった南部の沿岸地域では観光業の落ち込みが予想される。

 一方、ヨーロッパ北部の比較的涼しい観光地では、人出の増加が見込まれている。先ほどのレポートによると、デンマーク、イギリスでは、気温の上昇にともない観光客が増えると予想される。大半を氷で覆われているグリーンランドは今後数十年間で観光客が大幅に増えることが期待されており、2024年には新しい空港がオープン予定だ。

 もう少し細かく見てみても、多くの観光地ですでに気温上昇による影響が出ている。アメリカ国立公園局によると、グレイシャー国立公園では1966年から2015年にかけ、その名の由来にもなっている氷河の大きさが平均して40%消失している。また、フロリダ州のサンゴ礁は、今年過去最高レベルに達した海水温度によるストレスの影響で白化により死滅した。

◆旅行シーズンのピーク
 夏といえばバケーションの季節というのは、広く認められた事実である。家族連れは子供たちの学校が夏休みの期間中に旅行に出かけるし、社会人なら天候が理想的な頃合を選んで長期休暇をとる。

 しかし、夏の暑さが今後も厳しさを増していけば、夏休みの代わりとして春と秋の「ショルダーシーズン」が選ばれることも考えられる。つまり、旅行の(行き先ではなく)時期が変わっていく可能性があるということだ。

 実際、このような変化がすでに起こっているようだ。民泊分析プラットフォームのエアーディー・エヌ・エーによると、山地および湖畔の観光地における民泊の稼働率は、夏が終わると急降下するという特徴的な傾向があったにもかかわらず、2022年10月の稼働率は2019年のピーク時(7月)に並ぶほどの高さとなった。

 エンバイロンメンタル・リサーチ・レターズ誌に2022年に掲載された論文によると、日本の桜は例年より11日早く開花している。これを受け、観光客に人気の桜祭りは4月から3月に変更となった。

 働き方がフレキシブルに変化したことや、パンデミックからのペントアップ需要もまた、ショルダーシーズンの旅行の増加に貢献しているだろう。しかし、天候パターンが変化していることについてさらに広く知られるようになれば、夏のつらい暑さを避けようとスケジュールを調整する人が増える可能性が高い。欧州委員会の共同研究センターは南部の沿岸地域について、夏のピーク期の観光客が10%ほど減る恐れがあるとしている。

◆旅行から気候への影響も
 気候が変われば、旅行の移動手段や時期が変わる。しかしこの因果関係は、別方向にも働いている。つまり、観光そのものもまた、気候に影響を及ぼしているのだ。

 一部では、世界の二酸化炭素排出量のおよそ8%は観光によるものだとも言われている。大西洋を横断するフライト1回分の二酸化炭素を吸収するには、1エーカーの森林が必要だ。航空業界は排出量削減に向け急いでいるが、有意義な変化を起こすという点では乗用車などほかの主な排出元からは大きな後れをとっている。

 飛行機の乗客側としてはどうだろうか。今後は飛行機で移動する距離を減らすことになるか、政府の方から排出量削減に向けた規制を課すことになるだろう。

 たとえばフランスでは、すでに鉄道が運行しているルートについては、短距離の国内線が禁止されている。つまり、電車で2時間半かからず到着できる範囲なら飛行機は利用できないということだ。ヨーロッパでは各国が気候変動対策により積極的な姿勢を示しており、各地で同様の規制が見られるようになった。

 このような規制を支持する人のなかからは、この大きなカーボンフットプリントを減らす取り組みの一つとして、飛行機を頻繁に利用する人からフライトの数に応じて税金を徴収しようという案も出ている。

 これから数年のうちに同じか似たような対策が実施されるかもしれないし、されないかもしれないが、一つだけ確かなことがある。何の制限もなく飛行機で飛び回れる時代は、終わりを迎えようとしているのだ。

By SAM KEMMIS of NerdWallet
Translated by t.sato via Conyac

Text by AP