急成長する「過激な観光」市場 問われる倫理

回収される潜水艇「タイタン」の破片(6月28日)|Paul Daly / The Canadian Press via AP

 6月、深海に沈むタイタニック号を探索する潜水艦タイタンが爆縮し、乗員5名全員が死亡する事故が発生。顕在化した過激なツーリズムの存在とそのリスクとは。

◆タイタン号ツアーの悲劇
 悲惨な事故によって世間に広く知られるようになった、タイタニック号見学の潜水艦ツアーを実施してきたのは、アメリカのオーシャンゲート社。同社は潜水艇による観光事業を運営し、タイタニック号見学以外にも、いくつかのツアーを実施してきた。タイタニック号見学を行うためのタイタン号は、カーボンファイバーとチタンで作られた全長6.4メートルの潜水艇。定員は5名で、海底4000メートルまで潜水できるように設計されていた。ツアーの全行程は8日間で、その費用は1名あたり25万ドル(約3600万円)。乗員5名のうち、1名は操縦士、1名はコンテンツ・エクスパートと呼ばれる案内人で、残りの3名がツアー参加者という構成だ。

 今回、事故が起こってしまったツアーに参加していたのは、航空事業を営むアクション・アヴィエーション会長のハミッシュ・ハーディング、パキスタンのエネルギー投資会社の副会長を務めるシャーザダ・ダウードと彼の19歳の息子。そして、このツアーを運営するオーシャンゲートの創業者のストックトン・ラッシュ最高経営責任者(CEO)、元フランス海軍の潜水士でミスター・タイタニックと言われるほどタイタニック号に関して熟知していたポール・アンリ・ナルジョレが同乗していた。

 超高額ツアーというとラグジュアリーな体験を想像するが、タイタン号の内部は以外にもシンプルだ。過去に取材でツアーに参加した記者によると、内部は座席がないミニバンのようなもので、設備としては、いくつかのパソコン画面と直径21インチ(53センチ)ほどの覗き窓が一つあるぐらいだという。タイタニック号の訪問は、参加者は交替でこの覗き窓から様子を眺めるというものだ。決して快適なツアーではなさそうだ。逆に言えば、そこまでしてもタイタニック号を見たいという冒険心と欲望が存在しているということだ。

Text by MAKI NAKATA