付加価値税の減税、インフレ対策になるのか? イギリスで議論
◆公約実現のプレッシャー 財務省は消極的
減税は以前からジョンソン首相が約束していることであり、実行に移すよう与党の政治家から強い圧力があるという。実はイギリスでは2022-2023年に新たに200万人以上が高税率納税者となり、合計610万人に40%の高税率、または45%の追加税率が適用される。超高所得者が増えたというより、税制上の決定が反映されただけだとフィナンシャル・タイムズ紙(FT)は指摘している。
この問題は財務省に莫大な利益をもたらす可能性があることから、批評家からは「ステルス税」とも呼ばれ批判されている。焦る閣僚からは有権者を驚かせるような大きな減税が必要だという声もあり、VATの変更も選択肢の一つとなっていた。バークレー氏は「脱インフレ」につながるとして強くVAT引き下げを推したが、関係者によれば財務省は乗り気ではなかったという。(タイムズ紙)
VAT引き下げで一時的に商品やサービスの価格を下げればインフレを抑制し生活者の負担は緩和される。しかし引き下げる場合の政府のコストは17.5%の場合で180億ポンド(約2.9兆円)だという。また日本の消費税同様、貧しい人だけでなく裕福な人まで恩恵を受けてしまうという問題もある。(同)
財務省の大きな懸念は、VAT引き下げがその後の長く深い不況につながる可能性だったという。財政研究所のポール・ジョンソン氏は、VATを下げればすでに需要が供給を上回る経済にさらに資金を投入することになると指摘。現時点で需要を刺激することは経済的に不適切で、この点では財務省は正しいとしている。(同)
◆燃料価格に適用を 支援なしなら社会不安増大か?
もっとも、高騰するエネルギー価格への対策はすべきという意見がある。ガーディアン紙によれば、ロシアのウクライナ侵攻の影響などを受け、イギリスのガソリン価格は1リットル2ポンド(約323円)を超えるところも出ており過去最高を記録している。実は卸売価格はこのところ下落しているが、タイムラグや小売業者が侵攻初期の価格高騰による損失を穴埋めしようとすることもあり、小売価格には反映されていないという。今後大幅な原油価格の下落はなさそうで、ロシアの出方次第では高騰する可能性もあると同紙は述べている。
イブニング・スタンダード紙は、標準税率となっているガソリンや軽油に一時的に10%のVATを適用すべきだとする。消費者は燃料価格をよくチェックしているため、小売業者のほうも減税分を彼らに回さないわけにはいかないとしている。
イギリス最大の消費者ウェブサイト『MoneySavingExpert.com』の創設者、マーティン・ルイス氏は、エネルギー料金が上昇し続け政府がさらなる財政支援を行わない場合、抗議やストライキ、暴動などが起こる危険性があると警告している(タイムズ紙)。
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