統計より悲惨か…ロシアの貧困 ウクライナ侵攻でさらに悪化も

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◆公式貧困線が低すぎる? 多くの国民が貧困を実感
 ロシアの月給の全国平均は660ドル(約8万3000円)とされているが、モスクワやサンクトペテルブルクなどの大都市の給与がはるかに高いことを考えると、ほとんどの地域でこの値を大幅に下回ることになる(学術系サイト、カンバセーション)。

 貧困層は、総所得が最低生活費を下回る世帯に住む人々と定義され、2021年の最低生活費は月額1万1653ルーブル(約157ドル、同年1月1日時)だった。しかし、独立系調査機関であるレバダ・センターの調査では、回答者が実際に感じている最低生活費の水準は公式のほぼ2倍となっている。この主観的な水準を基準にすると、2018年にはロシアの全人口のほぼ40%が貧困状態にあったことになる。研究者のなかには、政府が社会福祉費を抑えるために人為的に最低生活費の水準を低くしているという意見もある。(SAGEジャーナル

◆間違った政策の結果 現政権下でのやり直しは不可能
 モスクワ・タイムズに寄稿した米シンクタンク、ランド研究所のハワード・J・シャッツ氏は、ロシアでは過去20年間、生産性と成長率を上げ、経済を多様化し、生活水準を向上させる経済改革が試みられたが、どれも本格的には実行されなかったと述べる。代わりに汚職が広まり、プーチン氏の取り巻きによる国営企業が経済を支配した。豊富な天然資源、高度な科学技術力、巨大な市場があるため、経済改革が成功していれば、成長は加速し、欧州の拡大という課題を大いに軽減できる可能性があったと、シャッツ氏は政策の失敗を指摘する。

 2000年から2005年までプーチン氏に仕えたアンドレイ・イラリオノフ氏は、ウクライナとの戦争の影響で、ロシアの貧困層は2、3倍になるだろうと予測する。プーチン氏は2018年に貧困ライン以下で暮らすロシア人を半減させると公約したが、現在の政治体制ではロシアが国際社会や世界経済に再び統合される可能性はゼロで、ロシアに明るい未来をもたらすことは不可能だと述べている。(BBC

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Text by 山川 真智子