ロシアに重くのしかかる「頭脳流出」 優秀な人材が大量脱出 経済に長期的ダメージ

銀行に列をなすモスクワ市民(3月12日)|AP Photo

◆もはや自己制裁 経済停滞は長期化か?
 実はロシア経済は、ウクライナ侵攻と国際的な制裁以前から、新しい産業を育てて資源依存を減らす必要性と、生産年齢人口の減少という二つの大問題に直面していた。教育がありスキルも高い数万人の人々を失うことは、現在の状況をさらに悪化させるとエコノミストたちは見ている。集団脱出はロシア当局が自ら科した制裁とも言え、長期的には進歩や生産性向上は望めず、人的資本は尽き、技術の輸入も困難になると、国際金融協会のエリナ・リバコワ氏は指摘している。(FT)

 もっともロシアの頭脳流出は以前から起こっている。シンクタンク、アトランティック・カウンシルの調査では、プーチン氏が大統領就任後、200万人がロシアを離れたことがわかっているという。エコノミストたちは、ウクライナ侵攻は頭脳流出の問題を長期的に悪化させ、孤立化も影響してロシアの近年の進歩を劇的に逆行させる可能性があると、リバコワ氏と同様の見方を示している。(ビジネス・インサイダー誌

◆優れたロシア人歓迎 西側にはチャンス
 フォーチュン誌に寄稿した起業家で作家のヴィヴェック・ワファ氏とテクノロジー編集者のアレックス・ザルケバー氏は、ロシアではソ連崩壊からの「失われた」10年間で出生率が低下し、相対的に20代後半が少なくなっていると指摘。これは科学者や技術者の潜在的な知的プールを減少させていることになるとしている。

 こういった事情を知ってか、EUはロシアへの制裁の一環として能力のある人々を奪おうと以前から計画しており、教育のあるロシアの若者に対してビザ発給の方針を緩和することも含まれていたという。その前にウクライナ侵攻が始まってしまったため、実現はしていない。(FT)

 ワファ氏とザルケバー氏は、いまこそアメリカでも若者だけでなく、ロシアの優秀な科学・ハイテク人材を優遇して受け入れるべきだと主張する。両氏によれば、ソ連の教育システムのもとで高度な数学と科学の教育を受けた優秀なロシア人が1990年代以降、テクノロジー分野でアメリカに大きな貢献をしてきた。しかし現在のロシアでは、政治エリートによる不注意と資金不足で以前のような教育はできておらず、かつて栄えた学術機関の多くが枯れてしまったという。いま年配の科学者や技術者までが国外へ向かえば、ロシアの知的資本不足は決定的になるが、アメリカ、そして世界にとっては明るい未来を意味するとしている。

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Text by 山川 真智子