ベンチャーキャピタルがESG投資に積極的ではない理由

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◆ESG投資において存在感の薄いVC
 投資市場全体において、ESG投資が拡大する一方、未来の形成に欠かせないスタートアップの投資において中心的な役割を担うVCは、ESGの世界において存在感が薄いというのが実情のようだ。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスとのパートナーシップで創設されたホートン・ストリート・ベンチャーズ(Houghton Street Ventures)で、卒業生が立ち上げたスタートアップの支援に取り組むハナ・リーチ(Hannah Leach)は、この状況を打破するために新たな団体VentureESGを立ち上げた。創設にあたっては、ロンドン拠点のVCであるGMGベンチャーズと、VCの倫理についての研究を行うケンブリッジ大学所属のヨハネス・レナード(Johannes Lenhard)が参画。VentureESGは、ベンチャー業界がESGの観点を投資判断に取り入れることを促進するために作られたアドボカシー団体で、ESG促進に賛同するVCらが参加するネットワークだ。ESGは自分たちに無関係と考えるVCも少なくないなか、米国の500 スタートアップスやイスラエル最大のVCであるピタンゴがVentureESGの動きを歓迎しているという。

 前出のレナード教授は、VCが積極的にESGに関与していない点について、3つの理由を説明している。一つは、VCに出資するLP(年金基金、大学基金、財団など)のVCに対する影響力が限られており、ESG投資に対してプレッシャーを与えるという動きが働かないという点。その背景には、高いリターンをもたらすトップのVCへの投資を維持しておきたいというLPの思惑がある。ESGへのプレッシャーは投資維持に対するリスクであり、プレッシャーがなければVCにとってはESGの観点を考慮するインセンティブが働かないというのがレナードの分析である。

 もう一つの理由は、VCは自らが「良いことをしている」といった埋め合わせPRに、それほど力を入れる必要はないという点。ハゲタカファンドなどとして「悪」として扱われてきたPEやヘッジファンドには、ESGの観点をプッシュすることでイメージを改善したいというインセンティブがある。一方、VCは比較的ポジティブもしくはニュートラルなイメージを維持してきたため、良いことをしているというPRは不要のようだ。

 そして3つめの理由が、VCはESG投資と呼ばずにESG投資を行っているという点だ。VC自身、社会にインパクトを与えているという自己認識がある。そして実際、VCはヘルスやバイオ・テックといった業界に積極的に投資している。また、ツイッターやミディアムなどを創業したエヴァン・ウィリアムズ(Evan Williams)らが立ち上げたObvious Venturesは、ESGなどとは呼ばずに独自のクレドを掲げ、「ワールド・ポジティブ(world positive)」という言葉で彼らの価値観を表現している。

 VC業界全体としては、「ESG投資」の視点が欠けているように見えるものの、VCが社会を良くするための動きに関与しているということは間違いなさそうだ。世代の入れ替わりによって、より社会貢献意識の高い人々が増えることによって、今後、社会的インパクトをより重要視するVCが増えるという流れに期待したい。

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Text by MAKI NAKATA