アップルストアに客殺到 大統領の型破り金融政策でトルコリラ急落

アンカラの外貨両替店(11月23日)|Burhan Ozbilici / AP Photo

◆不自由な中央銀行、大統領の言いなりに
 中央銀行に圧力をかけて金利を下げさせているのは、インフレ対策には利下げが有効という異例の見解を唱えているエルドアン大統領だ。これはインフレ率が急上昇した場合、経済の過熱を防ぐため中央銀行が金利を引き上げるという通常の政策とはまったく逆だ。

 大統領は金利引き下げを擁護し、「経済的独立戦争」の一環だと述べ、投資家やアナリストからの方針変更の求めを拒否している(CNBC)。ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)は、大統領とその政党には、金利を取ることをよしとしないイスラム教の教えに基づいた、高金利に対するイデオロギー的偏向があるとしている。

 投資家はトルコ中央銀行の独立性の低さを懸念し、金融政策がエルドアン大統領の意向に大きく左右されていると考えている。この2年間で政策の違いを理由に3人の中央銀行総裁が解任されている。(CNBC)

◆自衛に走る国民 すでに金融政策はないも同然
 急激なリラ安により、リラで販売されている商品は他国の価格と比べて実質的に大幅な値引きとなっており、市場の混乱のなか、小売業者は価格調整に必死だ。ロイターによると、トルコのアップル社のウェブサイトではほとんどの製品の販売が停止された。携帯電話やパソコンの現地価格は米国価格より10%ほど安くなっていたという。

 イスタンブールのアップルストアの販売員は、人々は電子機器を投資と考えているとロイターに話している。経済はかなりシュールな状況だが、1年後には買った値段よりも高く売れることがわかっているから、客が店に集まってくると説明している。電子機器以外に、化粧品など高級輸入ブランドも買い占められているという。

 下落の止まらないリラから、安全なドルやユーロに替える動きも加速している。トルコ中央銀行の発表したデータでは、11月19日までの約1週間で、家計が保有する外貨は約10億ドル(約1150億円)も増加した。個人の銀行預金の約59%は外貨建てとなっており、前週の約57%から増加している。(WSJ)

 さらにリラの価値が下がり続ければ、対外債務の返済がより困難になると見られる。格付け会社フィッチによれば、8月のトルコの債務は57%が外貨建てだった。欧州債、クレジット債などの運用を行うブルーベイ・アセット・マネジメントのティム・アッシュ氏は、非常識な金融政策が非常識なリラの動きに反映されており、現在起きているのは、中央銀行が実質的に金融政策を持たない場合に何が起こるかという道を外れた経済実験だと述べている(CNBC)。

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Text by 山川 真智子