経済崩壊、電力不足、犯罪、政治混乱…混迷極めるベネズエラで今何が起こっているのか

 このところの原油価格の低迷が、南米の産油国ベネズエラの経済に危機的状況をもたらしている。世界一とされるインフレと物資不足で経済は悪化しているが、政府が対策を打ち出せず、国民が疲弊していると欧米紙が報じている。

◆単一資源に頼る不安定な経済
 ベネズエラの輸出収入の95%は原油によるものだが、その価格は下がるばかりで、BBCによれば、2014年の価格は1バレル88ドルだったが、2016年5月には35ドルまで下落している。これにより、政府には国民生活に必要な輸入品を買うだけの十分なドルがなくなっているという。USAトゥデイ紙によれば、ベネズエラは必要な物資の70%を輸入に頼っており、食品、薬、日用品等の慢性的な品不足が続いている。

 品不足から当然物価は高騰し、想像を絶するインフレが起こっている。BBCはベネズエラのインフレ率は180%で世界一としているが、USAトゥデイ紙は、今年700%以上に達するとし、ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)に至っては、来年には1600%となるとしている。これに追い打ちをかけるように、ベネズエラでは干ばつが続いており、産油国だが電力のほとんどを水力発電に頼っているため、電力不足も問題化している。

◆前政権からの遺産も経済悪化の原因
 国民や野党からは、マドゥロ大統領と与党を非難する声が上がっているが、NYTは、今の危機は前政権にも責任があると述べる。反米だったチャベス前大統領は人気があったが、原油価格が高かった時代に、大胆な政策実現のため莫大な借入をしており、デフォルト回避のため、マドゥロ大統領は輸入を減らさざるを得なくなっているのが実情だ。

 政府は物価高のインパクトを賃上げと紙幣増刷で和らげようとするが、これがさらにインフレを呼び、通貨の名目上と実質上の価値の差を広げており、持続不可能とエコノミストから指摘されている(NYT)。

◆ブラックマーケットが拡大
 BBCは、物資不足には2003年にチャベス政権下で始まった基本物資の価格統制も影響していると述べる。これは、貧困層救済のため、砂糖、小麦粉、油等の価格に上限を設けたものだが、導入により生産者が赤字に陥り、価格統制を実施している政府運営の店への納品を拒否したり、生産自体をやめたりしてしまうケースが続出。さらに輸入物資に頼る事態に陥った。

 結局政府の価格で売られる安価な物資はすぐに売り切れ、なかには買い占めて隣国コロンビアに転売し、多額の利益を上げるビジネスまで現れたという。政府は取り締まりを厳しくしたが、政府価格で手に入る物資の買い占めや慢性的な不足はなくならず、さらなる商品価格の高騰を生んでいる(BBC)。これにより、必要なものを手に入れるために、政府価格の何倍もする商品を扱うブラックマーケットが大繁盛しており、国民の半数以上が利用していると見られている(NYT)。

◆怒る国民、居座る大統領。事態の改善は遠い
 NYTは、「スーパーの棚はからっぽ、電気は不足し、政府のオフィスは週2日しか開いていない。医療制度は崩壊、犯罪率は世界最悪の一つで、インフレは急速に通貨の価値をむしばんでいる」と事態の深刻さを表現している。

 多くのエコノミストは、生活必需品を買うために何時間も費やすことに普通のベネズエラ人は憤っていること、また政府の政策を利用して、違法に利益を得る買い占め商人という新たな階層が生まれていることが問題だと述べている。その一人であるハーバード・ケネディ・スクールの『Center for International Development』のディレクター、リカルド・ハウスマン氏は、「多くの人々が努力をするのに、何の供給も生まれていない。これは完全なる非生産的労働だ」と現状を批判する(NYT)。

 任期満了前に大統領を止めさせるという公約を掲げた野党は、12月の選挙で議会の過半数を獲得し、大統領の辞任を求める185万人の署名付きの嘆願書を提出した。抗議活動も起こるなか、大統領は外国勢力と右翼が仕掛ける経済戦争に立ち向かうためという理由で、60日の非常事態宣言を出し、対立する姿勢を強めている。両者が今の段階で妥協することはなさそうで、ベネズエラ経済はますます混迷を深めそうだ。

Text by 山川 真智子