ドル箱・石炭産業手放せず 豪「30年以降も産出・輸出続ける」

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◆ドル箱石炭は選挙にも強い 発電でも依存
 クリーンエネルギーの問題は、中道左派の豪連立政権を大きく分断する問題でもあるとVOAは述べる。国民党の一部からは、石炭産業は失うには価値がありすぎ、今後数十年はまだまだ繁栄するという声がある。2020年の輸出額は約390億豪ドル(約3兆1600億円)で、石炭貿易は過去10年間で倍増している。中国が非公式な輸入制限を行ったことで輸出額は大幅に減少したが、価格は回復し始めている。シドニー・モーニング・ヘラルド紙(SMH)の世論調査では、買い手が望む限り石炭の採掘と輸出を続けることを望むと44%が回答している。

 SMHによれば、炭鉱の雇用者数は全国で5万人ほどと、90万人の雇用がある製造業などと比べると少ない。しかし石炭は一握りの議席を取るためには絶大な力を持ち、良質な雇用と豊かな収入源を政府に提供しているという。

 先進国の多くは、発電方法を再生可能エネルギーに切り替えているが、オーストラリアの電力網は依然として大きく石炭に依存している。過去10年間に10基の石炭火力発電所が停止したが、国内の電力の70%は石炭で賄われている。前出の世論調査では、ほとんどのオーストラリア人がより強力な排出規制を望むと答えた一方で、石炭火力発電を10年以内に段階的に廃止すべきと考える人は49%と半数以下だった。(SMH)

◆決断の時迫る? 将来には「座礁資産」化も
 オーストラリアの石炭依存は容易に克服できそうにないが、国連気候特使のハート氏は気候変動がもたらす豪経済全体への打撃を考えれば脱化石燃料という結論は明確だと述べている(CNN)。豪連邦議会議員のトレント・ジマーマン氏も、世界の排出量削減の動きに参加するために国として計画と目標が必要だと主張している(VOA)。

 モリソン首相は、11月に英グラスゴーで開催される予定の国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)への出席をまだ決めていない。コロナ対応のためと新聞に語っているが、お粗末な気候変動対策が恥ずかしくて出席できないと揶揄する声もあるという。(VOA)

 石炭需要は今後10年は堅調に推移しそうだが、2030年以降に世界の需要が先細りになると、国内の石炭関連投資は「座礁資産」になるという可能性もオーストラリア準備銀行が指摘している(ロイター)。加えて近年では企業や投資家が石炭を捨てて再エネを選ぶ傾向もあり、オーストラリアにはより厳しい状況となりそうだ。

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Text by 山川 真智子