ベーシックインカムで勤労意欲は低下せず 米加州実験が示した可能性
◆労働意欲低下は間違い? 職探しは経済的安定から
タブス氏は2018年のNPRのインタビューで、過去のBI実験でも月500ドルで人が働かなくなると示されたことはなかったと述べ、より経済的に安定すれば、人はより良く、より賢く、より一生懸命に働くと主張していた。続いて行われた今年1月のインタビューでも、お金が人々の労働倫理を曲げることはないと述べている。今回の実験の素晴らしい結果を受け、BIで人々が働かなくなることないと改めて主張している(AP)。
実験の結果をまとめた共著者の一人、テネシー大学のステイシア・ウエスト教授は、経済的困窮は時間の不足を生むと述べ、パートタイムかつ雇用の不安定な人は多くの場合、より良い仕事を探すための時間が取れないと話す。フルタイムで働く人が増えたのは、500ドルのBIによって受給者がセーフティネットを得たことで、この負のサイクルを断つことができたからだと見ている。もう一人の共著者の、ペンシルバニア大学Center for Guaranteed Incomeのエイミー・カストロ・ベイカー教授は、人々が貧困から抜け出せないのは制度のあり方のせいであるのならば、我々はどういった可能性に蓋をしているのかという疑問が生まれるとしている(政治紙ザ・ヒル)。
一方さらなる研究が必要だという考えを示す専門家もいた。サンディエゴ大学のマット・ズウォリンスキー氏は、今回の結果はBI賛成派にはよいニュースだとしたが、BI支給が2年限定であるため、仕事を辞めなかった人が多かったことも考えられるとしている(AP)。
◆BIは経済的ワクチン、各地で実験進む
ストックトン市の実験は2022年に2年分の結果が出る予定だが、注目されるのがコロナ禍の影響だ。受給者の慢性的な負担を緩和した後にパンデミックに入っているため、ベイカー氏は、500ドルの支給がどの程度経済的ワクチンとして効果を発揮したかに関心を示している(経済サイト『マーケット・ウォッチ』)。
タブス氏は昨年の選挙で市長の再選を果たせなかったが、「Mayors for a Guaranteed Income」という団体を作り、全米の40名の市長たちとBI支給のために活動している。ゴールは、州や連邦政府を納得させ、より大規模なBIプログラムの実施を行うことだという。もっともBI実施には莫大な財源が必要となり、結果としてほかのセーフティネットが削られてしまうという反対意見もある。実験の成功だけではその答えは出せないという声もあるなか、現在いくつかのBIプログラムが全米で始動しており、BIの議論は勢いを増している(同上)。
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