トランプ氏の貿易戦争、真の目的は中国を正すことか EUとは手打ちへ

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 アメリカは貿易において不公平な競争にさらされていると常に主張するトランプ大統領。TPPを脱退し、NAFTAを再交渉に持ち込んだ上に、最近ではEUや中国と関税問題で揉めていた。ところがユンカー欧州委員会委員長との会談で、トランプ大統領はEUと和解する姿勢を見せており、関税攻撃の本当の標的は、中国ではないかと指摘されている。

◆両者満足の会談 トランプ氏とEU接近か?
 ロイターは、ユンカー委員長とトランプ大統領の驚きの合意により、自動車に課すとされていた25%の関税を含め、アメリカが新たにEUへ関税を課すことが一時停止されると報じている。また、欧州からの鉄鋼とアルミへの輸入関税に関する話し合いも持たれるとしている。

                                                                                                                 

 ドイチェ・ヴェレは、今回の結果はユンカー委員長のお手柄だと評価している。経済学者のペーター ボーフィンガー氏は、EUはトランプ氏に花を持たせるため、アメリカからの大豆とLNGの輸入で手を打ったが、経済的影響は無視できるレベルに抑えたとしている。EUはほとんどの家畜飼料用大豆をアメリカとブラジルから輸入している。アメリカが制裁関税を発動してから、中国はアメリカ産大豆を大きくカットしてブラジル産に切り替えた。それによってブラジル産のEUへの供給が減ることになるが、EUとしてはそれをアメリカ産で補えばよい。結果的に取引経路が変わるだけで、全体の輸入量に変化はない。

 またLNGに関しては、量と値段の面でアメリカのLNGはロシアからパイプラインで引かれている天然ガスには太刀打ちできないのが実情だ。今回の合意では、EUはアメリカからもっと買いたいという意思を示しただけであり、必ず買うとは約束していないため、拘束は受けないということだ。

 ロイターは、合意に期限はないため、進展があまり見られなければトランプ氏が再度関税を課すことも考えられるとしているが、とりあえずは両者が勝者となった会談だったとしている。

◆中国への危機感を認識 側近の影響も?
 会談後の声明では、「不公正な国際的貿易慣行」から両者の企業を守るため力を合わせることで合意したとある。これがどの国を指すのかは明らかだろうと、ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)に寄稿したTrend Macrolytics社の最高投資責任者、ドナルド・L・ラスキン氏は述べているが、いくつかのメディアは今回の合意のポイントは、ここだと指摘している。中国に対して同様の危機感を持つEUを味方につけ、中国の不公正な貿易慣行を正そうというのが、どうやらトランプ氏の目的ではないかという見方だ。

 実はトランプ氏のアドバイザーでもある、ラリー・クドロー国家経済会議(NEC)委員長は、「中国はルールを守らない。彼らのせいでトレード・システムが壊れている」という考えだ。同氏は、「トランプ氏は最終的にはEUへの関税を望んでいない」と述べる一方、中国に対する関税については擁護する姿勢だ(政治誌ポリティコ)。ロイターによれば、米通商代表のロバート・ライトハウザー氏もアメリカの産業の未来のためにも中国に経済的に降伏することはできないとし、中国への厳しい姿勢を支持している。こういった側近の考えも、トランプ氏の判断に大きく影響しているようだ。

◆経験浅い中国不利? 貿易戦争は長期戦
 前出のラスキン氏は、WSJの記事の中で、実際に貿易戦争となれば中国に勝ち目はないとする。現在アメリカ株は好調でドルも強いが、中国株は1月以来25%も下がり、元安が続いている。中国では社債デフォルトが急増しており、政府は強く出ているものの、かなり問題を抱えていることは確実だと見ている。

 同氏は、通貨安は貿易戦争においてはお決まりの武器だが、同時に新興国にとっては投資を遠ざけてしまうリスクもあると述べる。国家資本主義の中国では今まで不況はなかったが、貿易戦争による景気後退は未知の領域であり、資本逃避が金融恐慌や不景気を招き、失業者を大量に作り出し、暴動につながる場合もあるとする。結果として、お互いを徐々に傷つけ合う持久戦を持ちこたえた方が勝者となる貿易戦争には、中国は耐えられないとしている。

 外資や外国製品を受け入れ、WTOのルールにのっとり、海外の知的財産をリスペクトすることは敗北に感じるかもしれないが、長期的には国益になると同氏は指摘する。そしてニクソン大統領が中国に20世紀の道を開いたように、今トランプ氏は思いもよらない貿易戦争という方法を使い、中国を21世紀に迎え入れようとしていると述べている。

Text by 山川 真智子

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