「安全な」大麻商品がスイスでブームに スーパーも参戦で競争激化

Satomi Iwasawa

 昨年12月、筆者がスイスのチューリヒでチベット体操の講座に出席したときのことだ。部屋が独特の香りに包まれていて、何だろうと思ったら大麻線香だった。「今日は呼吸が焦点で、室内を特別な香りにしたくて」と講師は説明した。90分の講座の終わりには、筆者は頭が大きく膨らんだかのような感覚に陥り、軽いめまいがし、胸に少し違和感を覚えた。ほかの参加者たちは平気な様子で、私の状態も数分で戻ったが、家族や友人に話したら「十中八九、大麻線香のせいだと思う」と口をそろえた。

 もちろん、その大麻は麻薬ではない。いわゆる「ハイな状態」にならない大麻商品がスイスで流行している。食品や喫煙用の葉やオイル(大麻のエキスを混ぜたもの)やクリームが約300種類以上もあって、専門店やオンラインで気軽に買える。

オイル、注入器(味見のため)
Satomi Iwasawa

◆安全な理由は?
 ハイにならない大麻とは何か。その状態を引き起こすのは、THC(テトラヒドロカンナビノール)という成分だ。このTHCがほとんど入っていないため麻薬ではなく合法なのだ(合法化は2011年)。これらの合法大麻商品はCBD商品と呼ばれている。薬用効果があるとされるほかの成分CBD(カンナビジオール)を多めに含んでいるからだ。

 CBDは研究が不足しているものの、心をリラックスさせたり、不安を解消したり、痛みを和らげたりする効果があるとされる。依存性はない。アメリカでは、重度のてんかんを持っていた6歳の少女が、CBD含有量が多くTHC含有量が少ない大麻を摂取して、症状を劇的に改善できたと報道されて話題になった。

 CBDを多めに含んだ大麻は、スイスで製造者たちが交配を繰り返して作っている。THCの量をもっと抑え、CBDをできる限り多く含んだ大麻を収穫できるよう、新たな交配を続けているという。スイスではTHCの量は1%まで許されている。ほかのヨーロッパの国では最高0.2%が多い。

Text by 岩澤 里美