トランプ氏の「米国でもっと車作って」、米メディアからも無知さを指摘する声

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 来日したトランプ大統領は、日米の企業経営者を招いてスピーチをした。日米貿易は公正ではないとしたうえで、日本の自動車メーカーに対し、「輸出する代わりにアメリカで自動車を作ってみて」と呼びかけたが、すでに日本メーカーの進出は十分だと米メディアは指摘している。過去には対独貿易赤字の原因として、ドイツ車が「もらい事故」レベルの批判を受けたこともあり、トランプ大統領は自動車産業に対し、あまりにも無知だという声が上がっている。

◆トランプ氏おきまりの日本批判も、理解はやや進んだ?
 ウェブ誌『Slate』によれば、日米のビジネスエクゼクティブを前にスピーチしたトランプ大統領は、自動車貿易に関して、日本はアメリカを利用していると批判した。これは今に始まったことではなく、日本メーカーは毎年数百万台の車をアメリカで売っているのに、アメリカ車は昨年たった1万5000台しか売れていないというのが、トランプ氏のこれまでの主張だ。

 トランプ氏の自動車産業に対する理解は、日本車がアメリカ市場の脅威となり始めた1980年代から変わっていないという意見もあるが、最近は理解が進んだという見方もある。スピーチでは、現地生産をする日本メーカーのアメリカに対する信頼と雇用創出を褒め称え、新工場をケンタッキー州に建設予定の、マツダとトヨタに謝意を示した。Slateと自動車専門のウェブ誌『Jalopnik』両誌は、トランプ大統領は日本メーカーが対米投資をすでに行っていることは学んだようだが、問題はその規模の大きさを正しく認識していないことだとしている。

◆すでに国産車?現地化する日本自動車メーカー
 日本自動車工業会(JAMA)の今年度の報告書によれば、日本メーカーがアメリカで製造を始めたのは35年前で、すでに全米の20州で24の工場と43の研究開発、デザイン関連施設を保有している。2016年には9万人を雇用し、関連産業も含めれば、全米で150万人以上(2015年調べ)の雇用を支えていることになる。2015年に日本メーカーの米工場からは約41万台の車両が輸出されており、ホンダにおいては、すでに2013年にアメリカで生産した車両の輸出が、日本からの輸入を上回るほどだった(Jalopnik)。

 2016年に日本メーカーがアメリカで生産した車両は約400万台、エンジンは470万台だ。日本メーカーによる米国産部品の購入額も毎年伸び続け、2016年には699億ドル(約8兆円)を記録した。JAMAの昨年度の報告書によれば、アメリカで販売される日本ブランドの車両の75%が北米で生産されており、日本車の大規模な現地化は疑う余地もない。

◆ドイツ車もとばっちり。大統領はグローバル化への理解を
 ビジネスインサイダー誌は、かつて対独貿易赤字の元凶と決めつけ「ベリーバッド」と呼んだトランプ氏のドイツ車への批判も、かなり的外れであったと指摘する。フォルクスワーゲン、BMW、ポルシェ、アウディ、メルセデスが全米の年間セールスに占める割合はわずか7%で、台数にして100万台強だが、フォードとGMのセールスはその5倍だ。ドイツ車が得意なのは高級車で、キャデラックやリンカーンといった米高級車は太刀打ちできないのは事実だが、米メーカーがフォーカスするのは高い利益が見込めるSUVやピックアップで、車種での競合はないと同誌は指摘している。

 米国に雇用をとトランプ氏は訴えるが、日本車同様、すでに多くのドイツ車はアメリカで作られている。工場の多くは南部にあり、建設の際は「降って沸いてきた経済的幸運」として、地元から歓迎されている。唯一の大衆車として米国車のライバルとなるのはビートルを持つフォルクスワーゲンだが、その全米でのシェアはわずか2%ほど。それでも、テネシー工場では2000人を直接雇用しているという(同上)。

 同誌のマシュー・デボード特派員は、トランプ氏の最大の問題は経済関係を勝ち負けで考えてしまうことだと述べる。かつては国産車が独占していた市場に外国車との競争を持ち込んだことは、消費者には多大な利益となったはずだという同氏。市場を守ろうとする姿勢は偽の資本主義であり、大した脅威にもならない国々を敵にしてしまうとし、グローバル化された産業に対してのトランプ大統領の理解力は恐ろしく低いと述べている。

Text by 山川真智子