「日本のようにシニア人材を活用すべき」 アメリカも高齢者の労働力に注目

 厚生労働省によれば、4月の有効求人倍率は1.48倍で、バブル期を超える水準となった。完全失業率も2.8%と低く、これは働く意思のある人には必ず仕事がある「完全雇用」の状態だ。少子高齢化で労働人口が減るなか、高齢者を雇用し人手不足を補う企業も増えている。日本の高齢者の労働参加は海外からも注目されており、もっとシニアを活用すべきという意見もアメリカから出ている。

◆減り続ける労働人口。年金世代も働く日本
 エコノミスト誌によれば、1990年代後半のピーク時には6700万人以上だった日本の労働人口は、今世紀半ばには4200万人に減少するだろうと見られている。外国人労働者の数は2015年に220万人と過去最高を記録したが、移民の受け入れをしない日本ではまだ働ける人の活用を目指しているとし、高齢者の雇用が増えていることに同誌は注目している。

 いまや日本の60才以上の労働人口は約1260万人で、2000年の870万人から大幅に増加している。事実上の日本人男性の退職年齢は70才近くになっており、年金をもらえる年齢になっても働き続けているという点では、経済協力開発機構(OECD)加盟国の中でもまれなケースだとエコノミスト誌は指摘している。

◆見直しが求められる高齢者の定義。健康なシニアは働ける
 東京大学名誉教授の大内尉義氏は、食生活、医療、公衆衛生の進歩により今のシニア世代はこれまでで最も健康であるため、引退させるのはもったいないと述べ、元気でエネルギッシュな65才以上はたくさんいると話す(ブルームバーグ)。

 日本老年学会と日本老年医学会の報告書も、「高齢者の定義が現状に合わない状況が生じている」とし、65~74才を「准高齢者」、75~89才を「高齢者」、90才以上は「超高齢者」と区分すべきと提言している。これは医学的観点からのアプローチであるとしながらも、もし労働人口にこれらの定義を当てはめられるならば、労働力としての人的資源はあと1000万人以上増える可能性もあるとブルームバーグは指摘している。

 エコノミスト誌によれば、実際に政府の調査でも、65才以上の3分の2が働き続けることを希望している。シニアの人材派遣会社「高齢社」の緒方憲社長は、シニアが経験と知識を活かせる仕事に定年後就くことは、人材の有効活用だと同誌に話す。また、賃金や福利厚生を抑えた短期契約で労働力を確保でき、企業にとってもメリットがあると同誌は説明している。

 コンサルティング会社のマッキンゼーは、日本の介護産業が慢性的な人手不足であること取り上げ、元気な高齢者のうち10%が介護職に就けば、2025年までには70万人の新たな介護士を確保できると見ている。介護職経験者を優先的に老人ホームに入所させるなどのインセンティブを与えるのも一つの方法だと同社は説明するが、一定額の収入を得ると年金がカットされるシステムが障害になるだろうと見ており、この分野でのシニアの活用にはまだ課題も多いようだ(エコノミスト誌)。

◆日本に学べ。アメリカでもシニアの活用に注目
 フォーブス誌に寄稿した50才以上のためのサイト、『Next Avenue』の編集者、リチャード・アイゼンバーグ氏は、アメリカ人はより長生きになり、そしてより長く働くようになったとし、2030年には人口の20%が65才以上になるとしている。

 米中小企業向けの月刊誌、Incに寄稿したCorporate Rain International社のCEOティム・アスキュー氏は、移民を受け入れるアメリカは日本のような人口動態的な苦境にはないとしながらも、雇用のミスマッチはたくさんあるとし、解決策として日本のように高齢者の活用を検討すべきだと主張する。

 同氏は、日本と同様、多くの70代は昔の50代並みに元気で、働く意欲も高いが、アメリカでは若さを賛美する傾向があり、企業は知識や経験を持った年長者を放出しがちだと指摘する。強いアメフトや野球のチームはベテランとルーキーをうまく合わせて使っているのだから職場においても若者とシニアの参加が必要、と述べる同氏は、特に小さな会社やスタートアップは、知識や経験も浅いため、その穴を埋めるためにシニアを利用すればよいとしている。

 人事マネージメント・コンサルタント会社、マーサーのシニアパートナー、パトリシア・ミリガン氏は、年長の従業員のための雇用戦略に欠ける米企業を嘆き、今は雇用者が年長の従業員に対する考えを改める時だと述べる。同氏は、50才以上の従業員に関して、若者より生産性が低い、学ばない、コストがかかり過ぎるという3つの無意識の偏見があるとし、確かに高齢の労働者は個々の測定基準では若者より劣るかもしれないが、チームへの影響や、離職率の低減、もたらされる安定感という点ではパフォーマンスは高いと指摘している(フォーブス)。

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Text by 山川 真智子