政府系ファンドによるシャープ救済の良し悪し 海外投資家心理への影響に海外は焦点

 経営不振のシャープ再建をめぐって、これまで二つの提案がなされている。一つは、産業革新機構が3000億円規模の出資を行うというもの。同機構は官民ファンドだが、基金の大部分は国が負担している。そこでこの案は、実質、国によるシャープの救済とみなされている。もう一つは、台湾の鴻海精密工業による6000億円超での買収案だ。とはいえ、技術の国外流出を防ごうと経済産業省が後押ししている前者の案の採用が、ほぼ確実な情勢だ。欧米メディアはそこに、日本の保護主義、いわゆる「日本株式会社」の残存を見ている。安倍首相は海外に向けて日本への投資を呼びかけているが、虎の子にしている産業分野の企業に関しては、手を触れさせないのではないか、という疑念が語られている。

◆「日本株式会社」の残存を見る欧米メディア
 鴻海(ホンハイ)、またの名をフォックスコンは、アップルのiPhone、ソフトバンクのPepperの製造も請け負う電子機器受託生産の世界最大手である。

 国内報道では、産業革新機構が支援したところで、今まで何度も経営の立て直しに失敗してきたシャープに未来はあるのか、と疑問視する向きも多い。

 欧米メディアでは、鴻海のように海外から日本に投資する側の観点に立ち、日本の開放性や、規制緩和、コーポレートガバナンスなど、投資環境としての側面に注目して報道している例が目立つ。機構によるシャープの支援案を、政府による保護主義的な救済策とみなし、そういった措置が取られ続けるのであれば、投資環境としての適切さに疑いが生じる、といった具合だ。

 そういった疑念の形成に大きく影響しているのは、欧米メディアで頻出する「日本株式会社」という捉え方である。この用語は、実業界と政界の指導者らが一丸となって、海外の侵入者を寄せ付けないようにし、また輸出市場を征服しようとする国を表すために生み出された、とウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)は説明する。

 この傾向は高度成長期に顕著で、現在はかなり薄まっているが、日本にとってコアな産業分野では、海外からの参入に対していまだにガードが堅い、という旨をWSJは語っている。企業への投資に関していえば、安倍首相は2014年の政府広報ビデオで、海外の投資家に向け、英語で「みなさんの投資をお待ちしています。日本で投資してください」と呼び掛けた。だが今日、鴻海が耳にしているメッセージは、「もしその投資が日本株式会社の中心勢力に関係するものであれば、期待を抱かぬように」というものだとWSJは語っている。

 日本にはこういった二枚舌的な面があるという不満を海外投資ファンドが感じていることを、フィナンシャル・タイムズ紙(FT)が伝えている。そういったファンドは、今でも影響力の大きい経済産業省が、公には海外投資家を日本に呼び込む一方で、裏ではある種の契約を結ぶのを妨げている、と非難しているそうである。WSJは、海外投資家が、価値ある技術を保有しているとみなされている日本の大企業を取得しようと試みると、特別なハードルに直面する、という旨を語っている。

◆シャープが経営再建できるかどうかはそっちのけ? もっと重要なこととは
 欧米メディアは、機構による支援策が採用された場合に、海外投資家に与える印象を問題にしている。FTは、保護主義がシャープの買収劇に影響している、と報じる。機構による支援策は政府による救済に見えるとした上で、この件では、シャープが生き残るかどうか以上に、日本は本当に海外企業に開かれているのか、またコーポレートガバナンスへの日本の約束は本物なのかということが問題になると語っている。

 アベノミクスは日本株式会社を変化させるようなことをほとんどしてこなかったと海外投資家が結論付けた場合、海外投資家は資金を引き上げるだろうから、それは日本にとって危険なことだ、とFTは語る。

 ブルームバーグは、政府による救済措置は、国内の起業家、海外の投資家に対し、やる気をそぐメッセージを送るかもしれない、と語っている。

 ロイターは、「シャープのケースは、日本の市場や日本政府が、内外無差別であるのかどうか問われる試金石になる」という、ある外資系証券の幹部の言葉を伝えている。この人物は、「どちらになるにせよ、説得力のある説明によって、決定が下されなければ今後の外資による日本への投資や買収には、ネガティブな影響をもたらすのではないか」と述べている。この人物の語るとおり、シャープやそのメインバンクは、きちんと説明責任を果たすことが重要だろう。

◆技術の流出を防ぐためなど、救済には理があるとの見方も紹介
 ブルームバーグやWSJは、救済は理にかなったものだとの見方があることも伝えている。

 ブルームバーグは、救済は雇用と自国産業を守るための戦略的な措置であり、国主導の産業計画の古き悪しき時代への回帰ではない、と賛成派が語っていることを伝える。またCLSAのストラテジスト、ニコラス・スミス氏は、「日本は技術的に価値のある資産を競合国に売り渡すつもりはない」「この件ではよその国と事情はだいたい同じだ」と語っている。

 WSJは、日本で雇用の喪失や、技術面での優位を失う危険があるときには、政府が介入するのは道理にかなっていると政府当局者らが語っていると伝える。

 また、ある政府当局者は、シャープへの投資により、ジャパンディスプレイとシャープが優位に立つ次世代液晶パネル技術を保護することになる、と語ったそうだ。アップルがiPhoneにどの部品を採用するか次第で、産業部門が丸ごと生じたり消えたりする時代、そのような技術を保有し、かつ売り込めるだけの(生産)規模があることは極めて重要だ、とWSJは語っている。

 鴻海がシャープを買収した場合、シャープの技術者を鴻海が海外工場に配置転換させ、それによってよその国が日本の研究の恩恵を受ける事態になるかもしれないと関係者が心配していると、みずほ証券の中根康夫アナリストがWSJで語っている。WSJは鴻海が中国に工場を持っていると付記している。もしそうなれば、日本の最先端のディスプレー技術がコモディティー化してしまうだろう、と同氏は指摘している。

Text by 田所秀徳