ロシア、天然ガス・パイプラインの建設を日本に提案 なぜ今? その思惑とは

 ロシア政府は9月、日本に対し、サハリンと北海道を結ぶ天然ガス・パイプラインの建設を提案していたと、日本経済新聞が15日報じた。実現すれば、国内で使用するエネルギーのほぼ全てを輸入に頼る日本にとっても、税収の大きな部分をエネルギー関連が占めるロシアにとっても、大きな意味を持つものだ。またこれが、国際社会のパワーバランスを塗り替える可能性もある。

◆日本にとって天然ガスは重要なエネルギー
 日本では現在、全ての原発の稼働が停止している。そのため火力発電への依存が顕著になっている。火力発電では、石炭と並んで、天然ガスがその柱となっている。天然ガスには、石炭に比べ、発電時の二酸化炭素排出量が少ないという特徴がある。また天然ガスは、加工を経て、都市ガスとして用いられている。

 日本で使用される天然ガスは、その全てが輸入である。液化プラントでマイナス162℃に冷却され、体積が約600分の1に凝縮した液化天然ガス(LNG)の状態で、LNG船で輸送される。このコストのため、日本における天然ガスの価格は、パイプライン網が整備されているヨーロッパに比べ割高になっている、と言われている。

 ロイターは、2011年3月の福島原発事故以降、日本のLNG輸入量が急増している、と伝える。全世界のLNG出荷量の約3分の1を日本が購入しているという。経済産業省によると、日本は世界最大のLNG輸入国である。ロシア国営のイタルタス通信(日本語)によると、昨年の日本のLNG購入額は過去最高の7兆円となったが、これは震災前の2010年に比べ、2倍以上になっているとのことだ。ロイターによれば、昨年、日本が輸入したLNGのうち、約1割がロシアからのものだった。

◆エネルギーの輸出はロシアの主要産業?
 日本がエネルギー輸入大国だとすれば、ロシアはエネルギー輸出大国である。イギリスの石油メジャーBPの統計によると、2013年、世界の天然ガス産出量のうち17.9%をロシアが占めた。これは、アメリカの20.6%に次いで世界第2位だ。アメリカはシェールガスの開発により、2009年以降、ロシアを抜いてトップに立ち続けている。

 ロイターは、今回のロシアの提案について、その背景を説明している。ロシア政府は、西ヨーロッパへの石油・ガスの販売による税収(輸出関税や採掘税)に大きく依存しているが、東シベリアの(天然ガスの)膨大な埋蔵量の潜在的な顧客として、日本や中国などアジア諸国に重点を移そうと試み続けている、というのだ。

 NHKの報道によると、ロシアと中国は今年5月、東シベリアで産出される天然ガスを30年にわたって中国に輸出することで合意し、そのためのパイプラインの建設も始まっているという。なお日経新聞によると、日本に提供される予定の天然ガスは、東シベリア産でなくサハリン産のもの。

◆パイプライン建設で日本が受けるメリットとは?
 パイプライン建設によって日本が見込めるメリットは、天然ガスの安定供給のほか、購入価格の低下が期待できることだ。ウェブ誌ザ・ディプロマットは、ガスのまま送れるため、莫大な費用のかかる液化プラントを建造する必要がないことを理由として挙げている。記事によると、日本のLNGの輸入価格(輸送費込)は、10月10日の時点で、100万英国熱量単位(BTU)当たり13.05ドルだった。これに対し、現在建設中のロシア-中国間のパイプラインでの予想価格は、100万BTU当たり10.50 ~11.00ドルと見積もられているという。

◆パイプライン建設に立ちはだかる問題とは?
 しかし日本へのパイプラインの建設には、多くの困難が立ちはだかるものと見られている。日経新聞の報道をもとに、ロイター、ザ・ディプロマットがともに指摘するのは、北方領土問題と、ウクライナ問題の影響だ。

 安倍首相は、北方領土問題に関する交渉を視野に入れて、プーチン大統領との関係醸成に努めてきた。ウクライナ問題をめぐって、アメリカ、ヨーロッパがロシアへの制裁を次々と強化していったときにも、日本は、半歩遅れといった恰好であった。しかしここにきて、安倍政権は制裁に関して、欧米諸国と歩調を合わせつつあるようだ。

 このような状況下で、日本が、欧米諸国との関係と、ロシアとの関係を同時に良好に保つ、というかじ取りの難しさに、ザ・ディプロマットは言及している。ロシアにとっては、まさにそこが狙いどころで、パイプライン建設によって、日本とより密接な関係が築ければ、対ロシア包囲網の一角を崩すことにつながる。

 また、これまでロシアの主要な顧客だったヨーロッパに対して、アメリカがシェールガスの売り込みを画策しており、ロシア政府はアジアへの天然ガスの売り込みを強化しようとしていることを記事は伝える。

◆日本からもパイプライン建設を望む動きがあった?
 イタルタス通信(英語)は、今回のパイプラインと直接関係のあるものではないが、日本のほうからも、日ロ間のパイプライン建設に向けた働きかけが存在していることを伝えている。

 記事が紹介しているのは、国会議員による「日露天然ガスパイプライン推進議員連盟」だ。同連盟は以前から、民間によるパイプライン建設への支援を政府に要請している。サハリンから稚内、さらに茨城県日立市まで、総延長1350kmのパイプラインを、主に内陸部に敷設する計画だ。建設にかかる費用は6000億円と見積もられているという。このパイプラインでは、現在の輸入量の17%に当たる量が輸送できるとのことだ。

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Text by NewSphere 編集部