台湾の映像制作チームが描く「アート+歴史」 日本統治時代の画家を辿った『タッタカの思出』公開

你哥影視社の面々:左から廖修慧さん、蘇育賢さん、田倧源さん©︎你哥影視

◆一枚の水彩画の持つ視点に着目
 高雄市立美術館が収蔵している作品を一つずつ注意深く見ていくなかで、你哥影視社が着目したのが、高雄出身の画家、張啓華が描いた「眺望」という一枚の水彩画だった。日本統治下時代から絵を描き続けていた張啓華の作品には、時代の社会的背景が感じ取れる作品も多い。その一つの「眺望」は、張が住んでいた高雄の一室から眺めた、当時立ち入りが禁止されていた「山」を描いた風景画だ。

你哥影視社が昨年リリースした、ドキュメンタリー作品の制作過程をまとめた本『タッタカ的回憶』(左)、そこで紹介された張啓華の『眺望』(右)(高雄市立美術館蔵)

 当時台湾を制圧しようとする日本軍に対して、台南の先住民「セデック族」が激しい抵抗をし、山間部で戦いが繰り広げられていた。張が描いた景色に描かれた山には、日本軍の施設が設置されており、当時から張がこの作品を描いた1970年代になっても、一般市民が足を踏み入れられなかった場所だったという。你哥影視社の廖修慧さんは「張啓華が描いたこの絵の構図を見ると、前景にあるバルコニーがとても目立つことに気がつきます。このバルコニーは、山と画家との距離を定義しています」と話す。作品に描かれた山とバルコニーによる隔たりは社会情勢への思いを描いているのではないかと感じた3人は、「この距離は軍事的な理由によるもので、政治や政策が画家の創作に影響を与える可能性があることに気づきました。そして同時に、誰がこの山に入って絵を描くことができるのか、ということも気になりました」と続ける。

 では、山の向こうから街の様子を見て描くことができた人物はいなかったのか、と疑問に思った你哥影視社が調査を開始。調べを進めていくなかで見つけたのが、明治から戦前にかけて活躍した日本人水彩画家で、台湾に駐屯した元軍人の「石川欽一郎」が残した日記だったという。

Text by 寺町 幸枝