「カタールW杯ボイコットする」仏などで拡大、なぜ? 外交ボイコット求める声も

建設中のルサイル・スタジアム(2019年12月)|Hassan Ammar / AP Photo

◆労働者への賠償金
 ところで、国際人権NGOアムネスティ・インターナショナルはボイコットを推奨していない。「重要なのは移民労働者の境遇を変え、彼らの権利が尊重されるようにすること」だと考え、アムネスティは国際サッカー連盟(FIFA)と交渉して、2010年以来の労働者の権利侵害に対する補償プログラムを立ち上げる意向を示している(フランス・アンフォ、9/14)。

 アムネスティがFIFAに求めるのは、200万人の出稼ぎ労働者を対象とする少なくとも4億4000万ドルの補償だ。アムネスティが15ヶ国の1万7477人を対象に行った調査によれば、負傷した出稼ぎ労働者への補償をFIFAに求めるべきだと考える人は66%に上る。また主要なスポンサーであるアディダス、コカ・コーラ、マクドナルド、バドワイザーも労働者への賠償を支持する姿勢を見せている。(20minutes紙、9/22)

 これらの世論に押されたか、フランスのサッカー連盟(FFF)も10月4日、カタールの建設現場での労働災害犠牲者への補償基金プロジェクトを、他国十数のサッカー連盟と協力して立ち上げる意思を公的に示した(フランス・アンフォ、10/4)。

◆外交ボイコットは可能か?
 RTL が9月23日に発表した世論調査によれば、52%のフランス人がカタールでのワールドカップ開催に否定的な意見を持っており、外交ボイコットをすべきだと考える人は61%に上っている。しかしながら、外交ボイコットを口にする国はいまのところ皆無のようだ。

 それはおそらく、カタールが世界有数の液化天然ガス産出国であることと関係しているだろう。ロシアからのガス供給が途絶えた現在、西欧諸国にとってカタールは必要不可欠な存在なのだ。フランスのトータル・エナジー社は9月24日、現首長とのつながりが深いこともあり、他国に先駆けて世界最大のガス田開発についてカタールと15億ドルの契約を結んだところだ。ドイツやイギリスも目下カタールと交渉中にある。(フランス・アンフォ、9/25)

 ボイコットを煽る理由もエネルギー危機なら、ボイコットに踏み切れない理由もエネルギー危機という、一見矛盾する構図がここにある。

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Text by 冠ゆき