37年前のケイト・ブッシュの名曲『神秘の丘』再ヒット 若者の心を掴み拡散

Philip Chappell aka squidney / Wikimedia Commons

◆ドラマからTikTokへ 若いリスナーが目をつける
 実はこの楽曲は、ネットフリックスの大人気ドラマ『ストレンジャー・シングス』のシーズン4の極めて強烈なシーンで登場しており、これが楽曲の人気に火をつけたと見られている。シーンはスクリーンキャプチャ、ミーム、再投稿の形で拡散。それに伴い楽曲はバイラル・マーケティングの専門家でさえもなし得ない注目の連鎖を生み出し、前例のない露出度を達成した。現在最もストリーミングされている曲の一つとなっており、昔からのケイト・ブッシュのファンには久々に聞く新鮮さを、若いリスナーにはゾクゾクする発見の喜びをもたらしている。(ニューヨーカー誌)

 学術系サイト『カンバセーション』に寄稿したクイーンズランド大学のD・ボンディ・ヴァルドヴィノス・ケイ氏によれば、『Running Up That Hill』再ブレークへのTikTokの貢献は非常に高く、投稿・再投稿された『ストレンジャー・シングス』のクリップは1週間で数百万のビューを獲得し、ショートビデオへの楽曲の使用は50万回を超えているという。

 ケイ氏は、キャッチ―な引っかかりを持つ楽曲は60秒、30秒のクリップで目を引く映像とともに流すと、TikTokでピックアップされて共有される可能性が高いと指摘する。またTikTokは音楽を中心としたプラットフォームなので、ストリーミングサービスとは異なり、さまざまな機能を使ってより積極的かつ遊び心を持って音楽と接することができるという点で、楽曲の拡散効果が高いと見ている。ニューヨーカー誌も、TikTokではレアな楽曲や往年の名曲などが取り上げられ、予備知識のない若い世代の間で古い楽曲がちょっとしたうねりを生んでいると説明している。

◆デジタル疲れ? 古い曲に癒し効果
 ポップミュージック界では常に古いアイデアのリサイクルが行われてきたが、これまで以上に一からの見直しが進んでいるとニューヨーカー誌は指摘する。古い楽曲が流行る理由は、情報過多とデジタルによる絶え間ない刺激により、人々は過去の文化を避難場所と見なし、信頼できる古い名曲に永遠の安らぎを感じるからだと述べている。実際に音楽配信サービスで聞かれる楽曲も、リリースから5年以上経過したものに偏ってきているという。

 古い曲が思いもしない方法で話題になるのは喜ばしいが、アーティスト本来の魅力や背景から切り離され、楽曲が一過性のイベントとして作り直されることに違和感もあるとニューヨーカー誌は述べる。ウェブメディア『デイリー・ビースト』によれば、『ストレンジャー・シングス』以前のケイト・ブッシュのファンからは、にわかリスナーたちへの怒りの声も上がっている。もっともケイト・ブッシュ本人は「すべてが本当にエキサイティング」(ニューヨーカー誌)だとして、再ブレークを歓迎しているそうだ。

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Text by 山川 真智子