危機に対する社会の反応を風刺、『ドント・ルック・アップ』のアレゴリーとは

Niko Tavernise / Netflix via AP

◆さまざまな社会風刺の要素
 地球滅亡・人類滅亡を描いた映画は数多く存在するが、『ドント・ルック・アップ』は気候変動やパンデミックの危機に直面している同時代の文脈において、とくに無視できない影響力を持つ社会風刺コメディ映画だ。映画としての評価は賛否両論あるようだが、気候変動の危機を長年訴え続けてきたアクティビスト科学者は、この映画で描かれている天文学者の苦戦は、非常にリアリティのあるものだという。気候変動の危機に警鐘を鳴らしてきた人々にとって、この映画は非常に大きな影響力を持って彼らの声や立場を代弁する存在となっているようだ。

 タイムの記事は、この映画は単に気候変動の危機を、彗星の衝突という危機に置き換えているだけではなく、フラストレーション、ディベート、物議を醸すような議論といった、気候変動に関係する現実社会におけるさまざまな要素を表現している点が興味深いと分析する。たとえば、メディアにおける気候変動議題の扱われ方。ウェブトラフィックや視聴率に見合わなければ、シリアスな話題は避けられてしまう。他方、政治家に資金提供を行うことで影響力を及ぼそうとする政治と金のダイナミズムも描かれている。

 映画の科学コンサルタントとして映画制作に協力した著名な天文学者のエイミー・メインザー(Amy Mainzer)は、科学は自然界で起こっていることを伝え、芸術は人々がどのようにそれに対して反応するかという点を扱うと言う。科学的な論拠に基づいた判断によって社会を変えようとする力と、どのように人々を科学に耳を傾けさせるかという力との緊張関係が、映画の本質的な部分であるとコメントしている。

 『ドント・ルック・アップ』は、気候変動という利害が複雑に絡んだ地球レベルの課題に対しての、社会のさまざまな動きを風刺しているという点において、気候変動そのものを描くこと以上の影響力を呼んでいる。気候変動というトピックに触れず、社会風刺コメディという形で発信することで、逆にオーディエンスを気候変動について考えさせるという可能性を秘めている点において、この映画は芸術としての重要な役割を果たしているのかもしれない。

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Text by MAKI NAKATA