ケニア国内上映禁止のLGBTQ+映画『アイ・アム・サムエル』、監督は対話望む

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◆上映禁止とその背景
 9月23日、ケニア映画分類委員会(Kenya Film Classification Board:KFCB)は、『アイ・アム・サムエル』をケニア国内で上映することを禁止する判断を下した。禁止の理由は「同性愛者の結婚という議題を容認できる選択肢として促進するという映画製作者の明白で意図的な試み」とある。判断にはいくつかの法的根拠が列挙されている。まず、結婚を異なるジェンダーの2人の間のものと定義するケニアの憲法第45条を侮辱するという点。さらにKFCBは、刑法(Penal Code)165項は同性愛を禁止しているとした上で、この法律に逆らうような行為を合法化し、提唱し、正常化し、称賛しようとするようなコンテンツは容認できないとした。加えて、映画ライセンスや映画の対象年齢などについて規制する、映画演劇法(Films and Stage Plays Act)220章に従う必要についても言及した。この判断は、ケニア、アフリカにおけるゲイの人々の存在を認めること、未来の世代に対してもそのメッセージを発信すること、そして建設的な対話を促すことというムリミ監督の意図を真っ向から否定し、禁止するものだ。『アイ・アム・サムエル』に出演したサムエルとパートナーのアレックスは、暴力的な反発・攻撃が予測されるため、現在は欧州で生活している。

 同性愛に関連するケニアの刑法162項、163項、165項では、ゲイやホモセクシュアルという言葉は使われておらず、「自然の法則に逆らうような性行為」や「男性同士のみだらな行為」といったような表現が使われている。罰則については、5年から最長21年の禁固刑が規定されている。この刑法は、英国植民地時代に押し付けられた法律だ。アトランティックの記事は、同性愛は必ずしもアフリカの文化において禁じられていたものではなく、ホモフォビア(homophobia、同性愛差別)こそが、西洋からもたらされた概念であると論じている。英国においては、1967年にイングランドとウェールズで反同性愛の法律が廃止され、その後、スコットランドと北アイルランドでも廃止された。元英国植民地においては、最近になってようやく、ベリーズ、トリニダード・トバゴ、インドにおいて同様の法律が廃止となった。一方、ケニアだけでなく、エジプト、ジンバブエ、ガーナなどアフリカにおける元英国植民地においては、英国統治時代の刑法が引き継がれている。

 ケニアでは過去にも同性愛を扱った映画『ラフィキ』が、国内上映禁止となった。レズビアンのカップルを中心に描いた本作品は、国内外で多くの注目を集めた。その後、本作品はアカデミー賞に出品する条件を満たすために、1週間だけ国内上映が認められた。LGBTQ+をめぐるケニアの状況は好ましいものではないが、『アイ・アム・サムエル』の監督は希望を失っていない。この映画によって、LGBTQ+に関する建設的な対話が生まれることを彼は期待している。

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Text by MAKI NAKATA