映画『ムーンライト』が暴露する性・人種・階層の関係性 異色のLGBTQラブストーリー

 2017年アカデミー賞作品賞を受賞した映画『ムーンライト』は3月31日から公開される。ローリングストーン誌をはじめ欧米のメディアでは2016年ベストムービーと高く評価されている本作品は、幼少期から青年期まで黒人コミュニティで暮らす主人公の成長を描く。バリー・ジェンキンス監督が今までなかった傑作を作り上げたと世界中で絶賛されているが、その理由を探ってみたい。

◆自分の居場所を探し求める少年の物語
 戯曲「In Moonlight Black Boys Look Blue(月の光の下で、美しいブルーに輝く)」が原案となっている本作品は、マイアミを舞台に幼少期、少年期、青年期、3つの時代にわたって主人公シャロンの成長を描く。

 貧困地域で暮らすシャロンは、麻薬常習者の母親から育児放棄され、学校でいじめられながら生活を送っている。内気な彼の唯一の男友達はケヴィンだ。何も変わらない日常の中でシャロンとケヴィンが成長していくが、高校生になったときのある夜、シャロンがケヴィンに対して友情以上の思いを抱いていることに気づく。しかし同時に、自分が暮らすコミュニティでは異性愛以外のセクシュアリティが決して受け入れられないことも悟り、自分が同性愛者であることを隠しながら大人になる。そしてある日、自分の居場所を探し求めていたシャロンがケヴィンと再会するのだが……。

◆LGBTQラブストーリーだけではない − 性・人種・階層の関係性
 3部からなっている『ムーンライト』は、主人公の成長を描きながらアイデンティティの探求というテーマを扱っている。ここのアイデンティティはもちろんセクシュアル・アイデンティティのことでもあるが、それだけではない。『ムーンライト』の中心にLGBTQをテーマにしたラブストーリーがあるが、性の問題を人種と階層の問題につなげて語ることがこの映画の価値を決めている。

 ガーディアン紙のピーター・ブラッドショー氏が指摘しているように、『ムーンライト』は、男性性の形成についての映画であり、それにまつわる危機や傷を描いている。しかも、本作品は、「性の危機」が普遍的でありながらも、人種と階層に影響されていることを明らかにしているのだ。

 シャロンの人間性を形成しているのは、彼のセクシュアル・アイデンティティとケヴィンとの関係だけではなく、母親、学校で彼をいじめている少年たち、また彼が暮らしているコミュニティの人々との関係もあるのだ。

◆黒人のステレオタイプ的な表象を超越
「少年の成長」というテーマは決して斬新とはいえないだろう。では、なぜ『ムーンライト』が高く評価されているのだろうか? バリー・ジェンキンス監督がクリシェ(お決まりの表現)を避けているからだと、インデペンデント紙のジェフリー・マックナブ氏が述べている。黒人コミュニティにおける暴力をテーマにする多くの映画では、「麻薬の売人」や「麻薬常習者の母親」などがしばしばステレオタイプ的に描かれる。一方、バリー・ジェンキンス監督は、それらの登場人物に複雑性や人間性を与えながら常に観客を驚かせているのだ。

 マイアミ出身で、麻薬中毒者の母親に育てられたバリー・ジェンキンス監督は、黒人にまつわる誇張を避けつつ、そのコミュニティにおける権力のみならず、そこに所属する人同士の思いやりをも語っている。白人の登場人物の不在も黒人コミュニティを支配するメカニズムを暴露するには必要だと、ニューヨーカー誌のヒルトン・アルス氏が指摘している。

◆今までなかった物語
 LGBTQをテーマにしたラブストーリーが作品賞を受賞したのはアカデミー賞史上はじめてだ。もちろん『ムーンライト』は、はじめて男性同性愛というテーマを扱う映画ではない。しかし、性を人種と階層とにつなげ、主人公の成長を通じて男性性の形成を語ることで、本作品は今までなかった物語を観客に送っているのだ。

画像出典:ファントム・フィルム

Text by グアリーニ・レティツィア

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