韓国ドラマ、アメリカで人気上昇中 ストリーミングサービスで作品増加

Ratuken Viki via AP

 家族が寝静まった夜10時頃、キャロル・ホラデイさんはサンディエゴの自宅で1人パソコンに向かう。ネットサーフィンをするわけでも、SNSをチェックするわけでもない。楽天Viki(通称:Viki)で配信される韓国ドラマの字幕翻訳のボランティアに参加しているのだ。これまでにVikiで200タイトルもの字幕を担当してきたホラデイさんは、「これは、私の秘密の楽しみなのです」と話す。

 Vikiでは日本や韓国、中国、台湾のオリジナルコンテンツおよびライセンスコンテンツを扱っており、世界中のユーザーが利用している。登録者数がもっとも多いのがアメリカで、そのうち75%はアジア系以外の人々だ。料金別コースのほかに、一部広告付きの無料コンテンツも提供されている。

 翻訳者プログラムはボランティア制で、翻訳の質と取扱件数などによって初心者から「ゴールドランク」にまでに区分けされる。

 ホラデイさんは韓国語を話せないため、請け負うのは字幕編集だ。英語の字幕がついた映像を見て、文法や単語のならび、スペルチェックなどを手がける。翻訳者や編集者のほかに、翻訳対象動画の切り分けを行う「セグメンター」という役もあり、1人が1エピソードを丸ごと訳すわけではない。

 元弁護士のコニー・メレディスさんもまた、誇りある優秀な翻訳者の1人だ。翻訳の腕を磨くため、ハワイ大学に入学してまで韓国語を学んだ。これまでVikiで500本以上のタイトルを翻訳してきたが、英語と韓国語は文法の構造が異なるため、とても難しいという。

 メレディスさんは、「これは趣味のようなものです。人は『無料でそんなにたくさんやっているの?』と聞きますが、『いいじゃない』と返しますね。私にとっては最高の自分時間の過ごし方なのです。ニューヨーク・タイムズのクロスワードパズルと同じように、言葉のパズルを解く感じです」と話す。10分程度の番組を翻訳するのに、2時間ほどかかるという。

 楽天VikiのCOOを務めるヤスダ・マコト氏は、クラウドソーシング方式で字幕を作成することが精度向上につながると考えている。

 同氏は、「数百人ものスタッフが字幕品質に貢献してくれることで、そのテーマに精通していないプロの翻訳者が1人で作業するより、はるかに優れたものになります」と述べている。

 ちなみに、Vikiという社名はビデオ(Video)とクラウドソース型オンライン百科事典ウィキペディア(Wikipedia)を組み合わせたものだという。

 フォーブス誌の韓国メディア担当ライターであるジョーン・マクドナルド氏は、「Vikiのようなサイトではファンが翻訳を手がけており、これは素晴らしいことなのですが、視聴者がドラマの続きを見たいあまり、翻訳を急いでしまうことがあります。ですので、ほかのサイトで得られるような洗練された翻訳ではないかもしれません」と語る。

 Vikiの翻訳対象言語は英語だけではない。ヤスダ氏によると、ひとつのドラマが24時間以内に20ヶ国語へ翻訳されることもある。人気番組は、翻訳者のウェイティングリストができることもあるそうだ。ボランティアが見つからない番組や、すでに字幕のついたライセンスコンテンツの場合、少数ながら翻訳者が報酬を得られるケースもある。

 韓国ドラマの認知度は、韓国国外で高まっている。マクドナルド氏は、「この1年半ほど、多くの人に『最近韓国ドラマを見はじめたのですが、おすすめ作品はありますか?』と聞かれました。これは大きなことです」と話す。

 ほかのストリーミングサイトでも、韓国発のコンテンツが増えている。

 Apple TV+では韓国語作品を製作中で、ひとつは人気ウェブ漫画を原作としたSFスリラーの『ドクターブレイン(Dr. Brain)』、もうひとつが4世代にわたる在日韓国人一家を描いたイ・ミンジンの小説『パチンコ(Pachinko)』を映像化したものだ。こちらのシリーズは韓国語のほかに、日本語と英語でも配信される予定である。

 Netflixは今年、韓国系コンテンツ制作に約5億ドルを投資しており、スタジオドラゴンやJTBCといった大手スタジオとも提携している。2020年には、『スタートアップ: 夢の扉(Start-Up)』や『サイコだけど大丈夫(It’s Okay to Not Be Okay)』、『キム秘書はいったい、なぜ?(What’s Wrong With Secretary Kim)』といった韓国作品がNetflixで人気を博した。

 そして何よりも一大ブームを巻き起こしたのが、俳優のヒョンビンとソン・イェジンが主演した『愛の不時着(Crash Landing on You)』だ。北朝鮮人と韓国人のロマンスを描いた同作品は韓国の有料チャンネルtvNで放送され、Netflixでも配信された。主演カップルがあまりにもお似合いだったため、「本当に恋人なのではないか」とファンの間で評判になったほどだ。実際に今年1月1日、2人の代理人が正式に交際を認めている。

Netflix via AP

 マクドナルド氏は、交際のニュースが飛び込んできたときのことを「いや、思わず興奮しました」と振り返る。

 ストリーミングサービスによってテレビはグローバル化し、海外の番組も手軽に見られるようになった。しかし、韓国ドラマの人気の理由についてマクドナルド氏は、「K-POP同様にジャンルが融合していること」だと考えている。

 同氏は、「ポップスが1つのサウンドではくくれないように、ある種、総合的なのです。だから幅広いものを受け入れることができる。たとえばホラーでもラブコメでも、あるいはギャングの話だと思ったら実はブラックコメディーだったりと、ジャンルが変化し続けていくのです」と語る。

 また、韓国ドラマにはK-POPのスターが出演することも多く、それがK-POPファンを呼び込んでいる側面もあるという。逆に、ドラマに出演した俳優が歌手として活躍することも多い。

 人気男性アイドルグループ「Astro」のメンバー、チャ・ウヌは今年はじめに『女神降臨(True Beauty)』というドラマに出演した。マクドナルド氏は同作品を見て、「いい役者だが、バンドもやっているのか。是非チェックしなければ」と思ったという。

『スタートアップ: 夢の扉』に主演したペ・スジも、女性アイドルグループ「Miss A」の元メンバーだ。

 ミシガン州のサウスライオンに住むサラ・ワグナーさんは、韓国文化に囲まれて育った。40年来の親友が韓国人だからだ。

 ワグナーさんは、「親友の家によく遊びに行っては、韓国料理を食べました。インターネットのおかげで、韓国ドラマもずいぶん身近になりました」と話す。

 韓国作品への関心が高まったことについて彼女は、映画『パラサイト 半地下の家族』が2020年にアカデミー賞で最優秀作品賞を受賞したことが一因であると考えている。

 ワグナーさんは、「『ほかにおすすめの作品はある?』とよく聞かれるので、『新感染 ファイナル・エクスプレス (Train to Busan)』と答えています」と話す。 彼女は視聴した韓国ドラマのストーリー、テーマ、注目の食べ物、天気、結末などを、エクセルのスプレッドシートに記録しているという。

 ちなみに『キム秘書はいったい、なぜ?』のメモには、「12話には、しびれるようなキスシーンがある」と書かれている。

By ALICIA RANCILIO Associated Press
Translated by isshi via Conyac

Text by AP