五輪ドーピング問題:不正者と検査機関のイタチごっこ

Koji Sasahara / AP Photo

◆取り締まりは必須 3つの改善策
 エコノミスト誌は、ドーピングを止めるには取り締まりをするしかないとして、3つの改善案を提案している。1つ目は重視する部分の変更だ。検査の精度向上も大事だが諜報活動も大切だとし、内部告発者、不信な行動、製薬会社からの情報なども取り組み強化に積極的に利用すべきとしている。

 2つ目は資金の増強だ。WADAに出資しているのは各国政府とスポーツ団体だが、年間予算は4000万ドル(約44億円)でトップアスリートの収入にも満たない額だ。WADAの規則を実施する各国の機関はさらに少ない予算でやりくりしており、スポンサーやスポーツ連盟など潤沢な資金を持っているところの協力が必要だとしている。

 3つ目は新しい人を入れることだ。スポーツ界のガバナンスは悪く言えば腐敗しており、違反者摘発でスポーツ連盟やスポンサーの評判に傷がつくことを恐れている。これが後ろ向きのインセンティブになるため、ドーピング防止機関の管理は、外部に任せるべきとしている。

◆摘発しても限界あり 政治や技術的問題も
 ドーピングが見つかれば当然罰せられる。2014年にロシアの組織的なドーピング問題が発覚し、その後国家ぐるみのドーピング隠蔽、検査データの改ざんなどが指摘された。最終的にはスポーツ仲裁裁判所(CAS)が裁定を下し、2022年12月までの主要な国際大会にはロシアとして参加できなくなった。

 もっとも、CASの裁定はWADAが求めたものよりかなり甘くなっており、名ばかりの制裁ではないかという見方もある。東京五輪には、ロシアチームはROC(ロシア・オリンピック委員会)の名のもとに参加しているが、選手がどの国を代表しているかは明らかで、不正な国を取り締まる反ドーピング組織の力に限界があることを疑う余地はないとUSAトゥデイ紙は指摘している。

 マザノフ氏は、スポーツ界に新しい薬物が入って来てから、信頼できる薬物検査が開発されるまでにタイムラグがあるため、ドーピングには10年間の遡及検査が行われていると述べる。2012年に開催されたロンドン五輪の場合(注:当時は8年間の遡及期間)、42人のメダリストを含む140人以上のアスリートが出場禁止または失格になっており、その半数近くがさかのぼっての検査で摘発されていた。同氏は、これでは選手の成績は10年間確定しないことになると述べ、ドーピング問題解決の難しさを指摘している。

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Text by 山川 真智子