五輪ドーピング問題:不正者と検査機関のイタチごっこ

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 東京オリンピックが開幕したが、常に五輪で話題になるのが、運動能力を向上させるため禁止薬物を使用するドーピングだ。見つかれば罰を受けるにもかかわらず、多くのスポーツで行われている。1999年に世界ドーピング防止機構(WADA)が設立されたが、検査には限界があり、スポーツ界における公平公正実現の壁になっている。

◆もう慣れっこ 五輪で必ず出る問題
 学術系ニュースサイト『カンバセーション』に寄稿した豪ニュー・サウス・ウェールズ大学のジェイソン・マザノフ氏は、ドーピング問題は20世紀半ばに遡ってすべての五輪で起こっていると述べる。あまりにも五輪の一部となっており、東京大会ではドーピング問題が衝撃的なものになるのか、ただ世間が肩をすくめるだけのものになるのかはわからないとしている。

 エコノミスト誌は、リベラル派の間にはドーピング問題は解決不可能だという意見があると述べる。現在では軽量化された自転車、弾力性のあるシューズなど物理的な方法でパフォーマンスを向上させることはすでに認められている。それならば、化学的な方法も認められるべきで、ドーピング規制を完全撤廃すべきという提案もあるとしている。

 もっとも、ドーピング・ドラッグには重大な副作用を伴うものが多い。冷戦時代の東ドイツでステロイドを投与された選手には、重度の肝機能障害や発育不全などが起きた。また、ステロイドは女性に効果が高く、低い声、体毛などの男性的特徴が発現し、元に戻せなくなってしまった。ドーピングを野放しにすれば、無謀な量の薬物を摂る覚悟のある者だけが勝利を手にすることになってしまう。さらに、スポーツのキャリアは幼少期から始まることも多く、野心的なコーチのもとで苦しむ子供も出てしまうと同誌は指摘している。

Text by 山川 真智子