サッカー選手への人種差別と不寛容の広まり PK失敗のイングランド代表が被害

ラッシュフォードの壁画を修復するストリートアーティスト(7月13日)|Jon Super / AP Photo

◆差別に対する不寛容さの広がり
 PK戦の最後のシュートを担当したサカは、シュートを外してしまって泣き崩れたが、チームメイトやガレス・サウスゲート(Gareth Southgate)監督が抱きながら慰める様子が報じられた。サウスゲートは選手時代、自身もユーロ1996でPKを外し、当時の監督に慰められた経験をしている。サウスゲートは試合後の記者会見で、ラッシュフォード、サンチョ、サカに対する人種差別の攻撃は、許されざることであると述べた。差別発言に対しては、英国のジョンソン首相や、イングランド・フットボール協会の総裁を務めるウィリアム王子も、非難のメッセージを発信した。ファンも差別発言を批判し、選手たちを擁護した。また、ラッシュフォードの壁画への落書きは、すぐに黒いシートで覆われた。その後、落書きの事件を知ったファンらが駆けつけ、ラッシュフォードの肖像画を囲むようにして、ラッシュフォードへの応援メッセージやイングランドの旗などで壁面を埋め尽くした

 差別発言の直接的被害を受けたラッシュフォード、サンチョ、サカもそれぞれツイッター上でメッセージを発信した。ラッシュフォードは、12日にコメントを発表。PKを外してしまったことに対しての謝罪の言葉を表し、自分のサッカーのパフォーマンスに対しての批判は受け止めるが、自分が誰であるか、そして自分がどこから来たのかについては、決して謝罪しないと述べた。14日にコメントを発表したサンチョも同様に自分のPKの失敗については謝罪を表した一方で、人種差別発言を見なかったふりはしないとした。同時に、こうした人種差別は悲しいことに、いまに始まったことではないと述べた。そしてサカも15日にコメントを発表。試合後の数日間はSNSから離れていたとした上で、皆を落胆させてしまったことに非常に傷ついていたと述べた。一方、自分やラッシュフォード、サンチョに向けられた悪意あるメッセージを強く非難した。

 サンチョがいうように、残念ながらスポーツ界における人種差別は新しいものではない。人種の要素が都合よく使われ、とくにチームが敗北したときに人種差別が表面化するとの指摘もある。南アフリカのラグビー・ワールドカップでの南アフリカチームの勝利や、フランスのサッカー・ワールドカップ勝利など、多人種を抱えるチームが勝利すれば、反差別の勝利として称えられる。一方、チームが敗北すれば、「他」の要素を持った選手は差別やスケープゴートの対象となるという状況がある。

 差別に対する不寛容さは広がりつつあるものの、残念ながら差別発言がなくならない現状。今回の事件を受けて、政府やSNSプラットフォームによる罰則や規制を求める声がより大きくなるものと見込まれる。

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Text by MAKI NAKATA