東京五輪、残る暑さ問題 英団体が報告書「火の五輪」発表

Kiichiro Sato / AP Photo

◆決め手のない対策 選手も調整不足
 パンデミック前の2019年の5月から9月には、日本全国で7万1317人が熱中症で救急搬送され、126人が死亡した。2019年のテストイベントでは、氷、テント、アイスクリーム、ミストシャワー、扇風機、人工雪とさまざまな暑さ対策が試されたが、それでも体調を崩す人が出た。すでに競技はほぼ無観客となり、大勢の観客が危険にさらされる心配はなくなったが、東京が開催を勝ち取った理由の一つが「温暖な気候」だったのは、まさに皮肉だとAFPは述べている。

 国際テニス連盟(ITF)や国際サッカー連盟(FIFA)など、多くのスポーツ団体が、熱中症のリスクを測定するために用いる指数(WBGT)を使って、競技のスケジュール変更や中止を決めているが、オランダの研究者が調べたところ、東京五輪の場合は夜中を含む1日のどの時間帯でも、競技者の熱中症のリスクが依然として高いことがわかったという。(ロイター

 東京の気候に慣れるため、早めに現地入りして特別なトレーニングを積む海外選手やチームも見られる。しかし、6月1日時点で100以上の事前合宿などがコロナ禍の影響でキャンセルされたと報告されており、多くの選手たちは調整のための貴重な時間を失っている。(同上)

◆東京の医療にも影響? 開催地選びに気候は重要要素
 東京の医師たちは、大会期間中に熱中症などで緊急医療が増加すれば、国内のコロナ対策のリソースが割かれる可能性があると主催者に警告している(AFP)。また、救急医療の専門家は、高体温、脱水、疲労といった熱中症や熱射病の症状が新型コロナの症状に似ているため、救急隊の対応の混乱につながる可能性もあると指摘している(ロイター)。

 BASISの報告書は、世界の主要なスポーツイベントの主催者は、開催地を決定する際に気候の影響や環境の持続可能性を重要視すべきだと指摘。国際オリンピック委員会(IOC)は、気候データを今後の開催基準に組み込む必要があるかもしれないとしている。

 アスリートや観客、ボランティアの健康を危険にさらしてまで行うスポーツイベントの意義は再考されるべきであり、東京五輪がそのきっかけになることを期待したい。

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Text by 山川 真智子