グーグル、プエルトリコ美術を初めてデジタル化 Arts & Cultureで公開

AP Photo / Dánica Coto

 ラファエル・トゥフィニョ・フィゲロアが1953年に発表した絵画には、頭に赤いスカーフを巻いた母親の、深い皺が刻まれた決然とした表情が描かれている。富裕層の男性を描いたものが大部分を占めていた当時の肖像画の様式を脱却した作品だ。

『ゴイータ』は、Google Arts & Cultureが『ハミルトン』の制作者、リン=マニュエル・ミランダ氏のサポートを得て初めてデジタル化した350点超のプエルトリコ絵画の1つだ。ミランダ氏は11月8日、プエルトリコの4つの芸術関係機関から集めた作品のオンライン展示を公開した。

AP Photo / Dánica Coto

 展示の目的は、プエルトリコ美術を世界に発信するとともに、作品を保存すること。そしてアメリカ領プエルトリコにおいて十分なスペースを確保できず、13年間に及ぶ不況を受け予算も削減されるなか、絵画作品の展示が困難となっている美術館を支援することである。

 ミランダ氏はAP通信の取材に対し、「この地の素晴らしい芸術を、一瞬で世界に広められる機会です。グーグルはルーブル美術館やメトロポリタン美術館など、ありとあらゆる名所にカメラを持ち込み、そこの芸術作品をデジタル化してきましたが、プエルトリコ美術も同じように鑑賞できて然るべきです」と語る。

 グーグルは現在、『紀元前500年の指輪』や『真珠の耳飾りの少女』の細部画像、さらにメキシコのチチェン・イッツァを巡るバーチャルツアーなど、世界各国の作品や体験をオンラインで提供しているが、そこにプエルトリコの芸術作品が新たに加わることとなった。

 ミランダ氏によると、グーグルは今回のプロジェクトの一環として、「アートカメラ」と呼ばれる同社のカメラを初めてプエルトリコに持ち込んだが、そのためには特別な許可を得る必要があった。

「これで私も、何かしらの監視対象リスト入りを果たしたわけです」と、同氏は笑う。

 アートカメラは400ミリズームが可能というきわめて高い解像度を備えているため、絵の筆遣いなど、人間の目では確認できない細部まで迫ることができる。プエルトリコ文化研究所のエグゼクティブ・ディレクターを務めるカルロス・ルイス氏は、このカメラのおかげで草分け的存在とされるある女性作家のサインを発見することができたと言う。研究所が運営する国立美術館は2013年に閉鎖を余儀なくされ、作品は常設的な展示場所を失った。

 Google Arts & Cultureのアメリカ担当リーダー、サイモン・デラクロワ氏によると、プエルトリコの芸術作品48点のデジタル化にアートカメラを使い、数千枚の写真を撮影したが、数インチ単位で少しずつ撮影するため、1枚の絵画を仕上げるには30分から、作品の大きさによっては数時間もかかる作業となったという。

 デラクロワ氏は7月に初めてプエルトリコを訪れ、そこの芸術作品を目にした。同氏はAP通信の取材に対し、「何に驚いたかというと、コレクションの多様性、奥深さ、豊富さです」と語る。今回デジタル化したものは、4つの美術館が選出した作品に限られる。

 デラクロワ氏がホセ・カンペチェ・イェ・ヨルダン作の『El Gobernador Don Miguel Antonio de Ustáriz(ミゲル・アントニオ・デ・ウスタリツ知事)』という絵画に対してアートカメラのズーム機能を披露したところ、プエルトリコ美術館で行われた同プロジェクトの発表会に参加した観客は、一堂に驚きの声をあげた。バルコニーから笑いかけていると思われる人物など、背景のきわめて小さな部分まで鑑賞できたのである。

 今回のオンライン展示ではプエルトリコ出身の芸術家として、オルガ・アルビズ氏も取り上げられている。同氏の抽象画は、有名ボサノバ歌手らがアルバムのジャケットに使用したことをきっかけに、世界的に知られるようになった。

 Google Arts & Cultureでは現在、美術館やネルソン・マンデラ元大統領の監房といった史跡など、2,000超の地を探索できるようになっており、合わせて600万点を超える写真、動画、文書などが提供されている。

 グーグルは、来年にはより大規模なプロジェクトを発足し、プエルトリコの芸術作品を増やしていく予定だ。

By DÁNICA COTO Associated Press
Translated by t.sato via Conyac

Text by AP