映画『ライオン・キング』レビュー:オリジナル版への愛はどこに?

Disney via AP

「命は巡る」と『ライオン・キング』で歌っているが、映画製作もその傾向を増している。

『アラジン』『ダンボ』の「実写版」リメイク、そして、リメイクの危機に瀕している『リトル・マーメイド』に続き、『ライオン・キング』も帰ってきた。時代は巡る。サバンナの夜明けも。「ナーンツ・イゴンニャーマ・バギーチ・ババー!(父なるライオンがやってきた!)」も。

 ご時世に合わせるために、現代的な視覚効果、フレッシュなキャスティング、ストーリーの微調整を時代遅れの題材に施したものが、昨今のディズニー映画のリメイクだ。新しい『南部の唄』(訳注:1946年に公開されたディズニーの長編映画作品)は期待できないが、ディズニーのライブラリーの大半が、インターネット時代に合わせて遅かれ早かれデジタルでお色直しをされるだろう。

 この手のリメイクは、賛否両論をもって迎えられがちだ。『ライオン・キング』の場合、今回も歌がいい。シェイクスピア風のストーリーもいい。そして、なんと、ビヨンセが出ている。

 しかし、自然界をリアルに再現したジョン・ファヴロー監督の『ライオン・キング』には、不思議なくらい生気がない。オリジナルそっくりのリメイクに施された最大の手直しは、舞台となるアフリカの草原とそこに住む動物たちを写真のようにリアルに変えた、フルCGアニメーションだ。ディズニーアニメの世界と自然ドキュメンタリーがついに融合した。

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 ファヴロー、撮影監督のキャレブ・デシャネル、VFXスーパーバイザーのロブ・レガートらはVR環境を活用し、視覚効果が劇的に向上した。CGによって美しくリメイクされたものもある。ライオン・キングのムサファ(今回も声はジェームズ・アール・ジョーンズ)は作り物とは思えない威厳に満ちており、そのたてがみは、ロバート・レッドフォード以来の壮麗なブロンドヘアかもしれない。そして、プライド・ランドの草の茎は、アフリカの陽光に照らされキラキラと輝く。

 しかし、収穫はそれくらいだ。ロジャー・アレーズとロブ・ミンコフが監督した1994年のオリジナルの柔軟で躍動感あふれる手書きのキャラクターをリアルな動物に変えたことで、『ライオン・キング』は使える表現の幅を一気に狭めた。『トイ・ストーリー』シリーズでトム・ハンクスがウッディと一体化しているような、声優の役作りが大幅に欠けている。本作では、成長したライオンの王子シンバ役のドナルド・グローヴァー、成長した雌ライオンのナラ役のビヨンセ、極悪非道なスカー役のキウェテル・イジョフォーら豪華声優陣のほとんどがキャラクターからかけ離れている。そして、多くの場面で、観客の心もキャラクターから離れている。

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 それに、話す動物をそんなにリアルに描く必要があるのか。鳥の執事ザズー(声:ジョン・オリバー)を、熱心なバードウォッチャーのお墨付きを得るために赤いくちばしのサイチョウらしくする必要があるのか。『ライオン・キング』は、来るべきフルCGIアニメ全盛時代への重要な足がかりとなるかもしれないが、いまのところ、魔法の代わりにリアリズムを使っている感じがする。

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 一流クリエイター陣と豪華声優陣はベストを尽くし、『ライオン・キング』にいくばくかの活力を注入している。エルトン・ジョンとティム・ライスによるおなじみの歌に、ライスとビヨンセによる新曲が加わったが、今回は、ハンス・ジマーとリーボMによる音楽が浮遊感を増している。

 それにしても、この『ライオン・キング』のオリジナルの模倣ぶりにはがっかりだ。ジェフ・ナサンソンが単独で脚本を担当しているが、どのシーンも限りなくオリジナルに近い。ブロードウェイで20年以上上演されている物語なのだから、少々手を加えてしかるべきだった。

 ただ、製作陣が加えた若干の変更がスパイスになっている。ナラの役割は妥当に向上し、強化された。最高なのは、オリジナルでネイサン・レインとアーニー・サベラが演じた、ミーアキャットのティモン(声:ビリー・アイクナー)とイボイノシシのプンバァ(声:セス・ローゲン)が連発するギャグだ。下ネタ満載にもかかわらず、アイクナーとローゲンは、ほかの誰よりも『ライオン・キング』に新たな息吹をもたらしている。

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 それでも、今作のような退屈でつまらないリメイクを認めるには十分ではないし、ましてや、ビヨンセの絶大な存在感にはふさわしくない。この『ライオン・キング』には何かが欠けている。たぶん、目的が。そして、心が。ディズニーの名作の寿命は、サークル・オブ・ライフ(生命の環)というよりは、ハムスターホイールのように思える。そして、いよいよ愛を感じなくなっている。

 ウォルト・ディズニー・スタジオ・モーション・ピクチャーズ配給『ライオン・キング』は、上映時間1時間58分。2019年8月9日(金)より公開。

By JAKE COYLE AP Film Writer
Translated by Naoko Nozawa

Text by AP