映画『アラジン』レビュー:ウィル・スミスではなく監督のほうだった……

Daniel Smith / Disney via AP

 実写映画としてよみがえった『アラジン』を観て、ジーニー役のウィル・スミスを疑問視する声は杞憂だったことがはっきりした。疑わしきは、カメラの後ろに立つ人物だ。ジーニーの代わりに小さなランプに永遠に閉じ込めた方がいい。

 生々しいギャングものやバイオレンスものが十八番のガイ・リッチーは、ディズニーのロマンチックなミュージカル大作の監督として完全なミスチョイスであることが証明された。彼の手にかかると、『アラジン』は『アナと雪の女王』ではなく、『ザ・マミー/呪われた砂漠の王女』寄りになってしまう。本作には、拷問シーンや無意味で技巧的なスローモーションのアクションシーンが登場する。『アラジン』なのに、だ。

 ウィル・スミスの起用は未知数だった。ロビン・ウィリアムズがアニメ版で見事な吹き替えにより息吹を与えた、変幻自在で元気の塊のような精霊を実写版で演じられる俳優がはたしているのか。スミスも最初は苦戦しているが、おそらく、「君なりの俺を演じろ」というジーニーのアドバイスを聞いたのだろう。

                                                                                                                 

 ジョン・オーガストと共同で脚本も手掛けたガイ・リッチー監督は、アニメ版の構成をベースに、ブロードウェイミュージカルの要素を加え、脚本を少々改良した。なかでも印象的なのは、もう一つのラブストーリーが加わったことと、ジャスミン王女をおとなしくてかわいい女の子から自ら行動する強い女性へと変えたことだ。さらに、人は自分の生まれにとらわれているのではないかという考えが強調されている。

 メナ・マスードが果敢に演じる主人公アラジンは、ヘアスタイルがバッチリ決まった浮浪児だ。自由奔放なジャスミン王女に恋をし、魔法のランプをひとこすりして彼の人生は変わる。ナオミ・スコット演じるジャスミンは、おもしろくて強くて勇敢な上、おそろしいほどの美声の持ち主。2019年のディズニー映画のヒロインにふさわしい。

 アラン・メンケンが作曲した『フレンド・ライク・ミー(Friend Like Me)』『アリ王子のお通り(Prince Ali)』『ホール・ニュー・ワールド(A Whole New World)』などオリジナルの代表曲に、メンケンが作曲を、『ラ・ラ・ランド』の歌曲で知られるソングライターコンビのベンジ・パセックとジャスティン・ポールが作詞を手掛けた新曲『スピーチレス~心の声(Speechless)』が加わった。ジャスミンが歌うこの名曲はいずれ、『レット・イット・ゴー~ありのままで~(Let It Go)』に代わるディズニーの代表曲になるかもしれない。

Daniel Smith / Disney via AP


Daniel Smith / Disney via AP

 ほかの見どころは、マイケル・ウィルキンソンのデザインによるバラエティに富んだ衣装、本物と見紛うばかりのサルのアブーやトラのラジャー、アラジンを慕う魔法のじゅうたんなど完全CGの動物たち、そして、侍女役のナシム・ペドラド(『サタデー・ナイト・ライブ』元レギュラー)と王子役のビリー・マグヌッセンの特筆に値する演技だ。振付師のジャマール・シムズは、見事なマッシュアップでヒップホップとボリウッドを融合させた。

 しかし、美術監督のジェマ・ジャクソンが手掛けた中東・南アジアのセットは、ありきたりの屋台、崩れ落ちそうな壁、絶え間ない喧噪と、どれを取っても実に安っぽい。実際問題、漠然とした中東の街のシーンは、『レイダース/失われたアーク』のそれと大差ない。そして、本当にお粗末なのが魔法の洞窟だ。とてもそうとは思えない洞窟の入口は、まるで金貨やルビーを吐き出すネコの口のようだ。

 マーワン・ケンザリ演じるジャファーはオリジナルよりも若いが、雷鳴とどろくなか目をむいて、『スタートレックII カーンの逆襲』さながらに叫ぶなど、最後には完全に気が狂う運命にあるのは明白だ。それでも、今回は彼の生い立ちが語られ、「リンゴを盗めば泥棒だ。王国を盗めば国王だ(Steal an apple, you’re a thief. Steal a kingdom, you’re a statesman)」など、いいセリフも与えられている。

 スミス演じるジーニーは、マティーニとヨガをたしなむ、目立ちたがり屋のかまってもらいたがりの性格で、ポップカルチャーに染まっている。青い肌の彼は作り物感満載で、必死になって今は亡きロビン・ウィリアムズに寄せようとしている。青くない、スミスのジーニーになると、ぐっとよくなる。宮殿で王女に話しかけられずにいるアラジンにジーニーが手を貸すシーンでは、ここ数年でいちばんおもしろいスミスを観られる。

 しかし、どのシーンでも監督リッチーの苛立ちが見て取れる。砂漠で爆発を起こしたくて仕方ないのだ。ジャスミンが歌う『スピーチレス~心の声(Speechless)』をフィーチャーした幻想的なシーンを唐突に挿入して、それっきり。アクションはとてもいい。オリジナルをあざ笑うかのように、『ジュラシック・パーク』にも負けないほどの刺激的で壮大なアプローチで観客を震え上がらせるが、ビジュアルが定まらない。静かなシーンは退屈で、映画監督なら朝飯前のはずの、魔法のじゅうたんに乗って『ホール・ニュー・ワールド』を歌い上げるロマンチックなシーンでさえも、どこか痛々しい。

 全体的に悲惨な映画を締めくくるのは、エンドクレジットで流れる『フレンド・ライク・ミー(Friend Like Me)』の悲惨なリミックスだ。DJキャレドが「Another one!」と叫び続けるなか、お馴染みのラップナンバーをスミスが熱唱する。再び、メンケンとパセック&ポールのコラボ曲が流れるが、映画界屈指の音楽家たちをもってしても、後味の悪さは拭えない。

 ウォルト・ディズニー・スタジオ・モーション・ピクチャーズ配給『アラジン』、上映時間は2時間8分。6月7日(金)公開。

By MARK KENNEDY AP Entertainment Writer
Translated by Naoko Nozawa

Text by AP