映画『スパイダーマン:スパイダーバース』レビュー:新鮮で胸高鳴る、観るべき一本

Sony Pictures Animation via AP

 今シーズンはスーパーヒーローが飽和状態だとお思いのあなた。では、スパイダーマンは当分観なくてもいい? バカを言うなと思うかもしれないけれど、スパイダーマンが1人どころか5人も出てくるアニメ映画『スパイダーマン:スパイダーバース』はぜひ観てほしい。飽き飽きしていたことなど忘れ、もっと出てきてくれときっと思うはずだ。

 本作は、親愛なる隣人スパイダーマンは1人しかいないという概念を愉快にかき乱し、誰だってスパイダーマンになれるという、胸躍るアイデアを提示する。女の子だって、太鼓腹の中年男だって、キッズアニメに出てくるようなブタだって。

 この意味を軽んじてはいけない。コミックやグラフィックノベルが長きにわたり試みてきたことを映画でやってのけたのが、この『スパイダーマン:スパイダーバース』だ。その題名にたがわず、可能性の宇宙を開き、「誰だってマスクを着けることができる。君だって」と我々に語りかける。

                                                                                                                 

 映像もストーリーも、目を見張るほど新鮮だ。奇妙で脱近代主義、斬新奇抜なストーリーテリングの手法、ユーモア、共感、アクションが詰め込まれている。それでいて、正義のために戦うことの責任を学ぶ一人の少年の物語というスパイダーマンのテーマに忠実な映画が、ここに誕生した。

 本作の主人公は、スパイダーマンコミックのスピンオフ作品から引き抜かれたキャラクターで、アフリカ系アメリカ人の父とプエルトリコ人の母を持つ少年、マイルス・モラレス。ブルックリンに住む彼の部屋の壁には、チャンス・ザ・ラッパーのポスターが貼ってある。トビー・マグワイア、アンドリュー・ガーフィールド、トム・ホランドが演じてきた前任者のピーター・パーカーとは似ても似つかないタイプだ。大いに結構。ケイト・ブランシェットが映画でボブ・ディラン役をやるんだから、イメチェンしたっていいじゃないか。

『LEGOムービー』で評価されたフィル・ロードとクリス・ミラーのコンビが製作を手がけ、絶えずスタイルが変化する卓越したアニメーションで長編スパイダーマン映画を作り上げた。限りなく現実に近づくや否や、現実を超越する。日本のアニメ、スローモーション、色遊び、ポップアート、手描き、CGアニメーションが盛り込まれ、さらには小ネタやパロディも満載だ。

 アニメーターが描く物語の舞台は、見事なまでにありのままのニューヨークだ。キーキーと音を立てて走る落書きだらけの地下鉄から、街を行く素っ気ない人々(そのうちの一人の声を、サウンドトラックに参加したポスト・マローンが担当している)まで完璧だ。あえて文句を言うとすれば、背景の対象物をぼかして前景の絵を際立たせるテクニックのおかげで、メガネはないのに3D映画を見ているような気分になる。

Sony Pictures Animation via AP

 主人公のマイルス(声:シャメイク・ムーア)は、警察官の父親(声:ブライアン・タイリー・ヘンリー)とクールな叔父(声:マハーシャラ・アリ)の顔色を伺う日々を送っている。突然変異したクモに噛まれたマイルスは、スパイダーマンの死を目撃する。小さな子供には刺激が強いので、ご注意を。ほどなくしてマイルスは、別の宇宙へのアクセスを可能にする加速器を作った巨漢キングピン(リーブ・シュレイバー)によって、現実から解き放たれた「スパイダーピープル」がほかにもたくさんいることを知る。

 メリー・ジェーンと離婚協議中で、スウェットパンツ姿の冴えない中年太りのピーター・パーカーの声を担当するのは、人気ドラマ『New Girl/ダサかわ女子と三銃士』でおなじみのジェイク・ジョンソン。ほか、ナチスと戦うハードボイルドな私立探偵、白黒のスパイダーマン・ノワールの声をニコラス・ケイジ、クールな美少女のスパイダー・グウェンの声をヘイリー・スタインフェルド、未来からやってきた日本のアニメ風のペニー・パーカーの声をキミコ・グレン、そして、落ちてくる金床の使い方までキッズアニメの世界に忠実なスパイダー・ハムの声をジョン・ムレイニーが担当している。

『デッドプール』さながらに仲間と観客にしょっちゅうウィンクしつつ、このおかしなスパイダーマンファミリーは、キングピンを倒してそれぞれの世界へ戻るために団結する。ボブ・ペルシケッティ、ピーター・ラムジー、(フィル・ロードと共同で脚本を執筆した)ロドニー・ロスマンが共同で監督を手掛け、エリファント、Run-DMC、ノトーリアス・B.I.G.、ジェームス・ブラウン、ニッキー・ミナージュらが参加した豪華なサウンドトラックとともにストーリーを盛り上げる。

 マーベルの生みの親であるスタン・リーが本作でもアニメになって登場するが、今回は悲しみをまとっている。スパイダーマンの死を嘆き、「彼がいないと淋しくなるよ」とマイルスに言うリーは、昨年11月12日にこの世を去った。観客である我々も、彼がいないと淋しくなるに違いない。おもしろさ、アクション、そしてやさしさをストーリーに詰め込み大ヒットさせるという、リーがキャリアを通じて挑んだテーマを、本作は踏襲している。

 コロムビア映画配給『スパイダーマン:スパイダーバース』は、PG指定。上映時間は1時間57分。3月8日(金)より公開。

By MARK KENNEDY, AP Entertainment Writer
Translated by Naoko Nozawa

Text by AP