難民の“現実”を体感する『ヒューマン・フロー 大地漂流』 ベネチア5冠のドキュメンタリー

©2017 Human Flow UG. All Rights Reserved.

 昨年のベネチア国際映画祭で5部門を受賞した秀作が、12日にいよいよ日本に上陸する。映画『ヒューマン・フロー 大地漂流』は、増えゆく難民たちの過酷な日常を描き出す、メッセージ性に富んだ一本だ。中国の現代美術家であるアイ・ウェイウェイ監督の渾身の作品とあり、海外メディアの評判は極めて良好だ。

◆23ヶ国でカメラが見た現実
 難民で一杯となった小さな船や、ジェスチャーをしながら何事かを叫ぶ男たち、そして亡命を求める子供たち——。2時間超の大作となった本作は、感情を掻き立てるようなシーンで埋め尽くされている。死を覚悟で地中海を越えるアフリカの難民や、シリアからヨーロッパへの亡命を試みる人々など、同じ地球上で起きている残酷な現実に改めて気づかされる。監督と撮影クルーは中東やアフリカなど23ヶ国に赴き、約一年をかけて難民の実態をフィルムに収めた。編集前の映像素材の長さは実に900時間に及ぶ。

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 特徴的なのは、ドローンによる空撮ショットだ。広大な海をゆく難民船や、飛行機の格納庫内に広がる難民キャンプの様子を、壮観な鳥の視点で繰り返し捉えている。一方で地上のカメラは、難民の日々の暮らしを非常に近い視点から映し出す。ニュースで断片的にしか知ることのない彼らの生活を、暴力、経済的困窮、宗教上の迫害などを含め、ありのままに非常に生々しく伝える一本だ。

Text by 青葉やまと