「金のトイレなら貸せます」 トランプ氏のゴッホ絵リクエストに美術館が回答

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 トランプ大統領夫妻の居住スペース用に、ゴッホの貸出リクエストを受けたニューヨークの美術館が、展示で使用した18金のトイレなら可能と回答したことが話題になっている。

◆辛辣な意味を持つ芸術作品である「アメリカ」
 グッゲンハイム美術館のチーフ・キュレーターであるナンシー・スペクター氏がホワイトハウスに提案したのは、ゴッホの「雪のある風景」のような絵画とはかけ離れたものだった。それは、「アメリカ」と名付けられた、実際に使用できる18金のトイレである(ワシントン・ポスト紙)。

 この作品は1年間、博物館の5階の公衆トイレに展示され、来場者が実際に使用することができた。展示会は終わり、現在トイレは貸出可能である。

 作品は、現代美術家マウリツィオ・カテラン氏によるもので、批評家からは、「過度な富を尖った風刺として表現した」と言われている。カテラン氏は、解釈はそれを見る人に任せているが、「あなたが食べるものは何であれ、200ドルのランチでも2ドルのホットドッグでも、結果は同じです。トイレ側ではね」と発言している。

 カテラン氏は、作品の意味となぜトランプ氏に貸出を提案したかという質問に対し、「非常に繊細な議題だ」と含み笑いしながら答えた。「私たちの生きている意味は何でしょう? 死ぬまですべてが不条理なように見えるし、その後に意味をなします」。彼は、この作品を制作するために費やされた金のコストを明らかにすることを拒んだが、100万ドル以上と推定されている。

 大統領が自身の居住スペースのために、大規模な芸術作品を借りるのは一般的である。スミソニアン美術館はケネディ家にウジェーヌ・ドラクロワの「喫煙者」を貸し出した。オバマ前大統領は、マーク・ロスコとジャスパー・ジョーンズの抽象画を飾った。

 トランプ大統領は、住宅や金庫、さらには飛行機に金メッキのものを設置することでよく知られている。しかし、大統領は潔癖症であることから、以前に使用されたトイレ、18金を受け入れるかどうかは不明である。今のところホワイトハウスからの回答はないようである。

◆貸出拒否の理由
 ワシントン・ポスト紙によれば、スペクター氏はホワイトハウスからのリクエストがあった1ヶ月後、ホワイトハウスのキュレーターに対し返事を書いた。「非常に稀な場合を除いて持ち出しを禁止する」というこの絵は、スペインのビルバオ・グッゲンハイム博物館の展示に向けて輸送中であり、その後「近い将来にニューヨークに戻る予定」と理由を伝えている。「もちろん、(金のトイレは)非常に価値があるものであり、やや壊れやすいものですが、私たちはその設置と管理のためのすべての指示を提供するでしょう」。

 実は2016年のトランプ氏の選挙の翌日、スペクター氏はInstagramに投稿している。「これは、私たちの最愛の国を憎しみ、人種差別、不寛容から取り戻す最初の日でなければなりません」「悲しんではいけない、整理しなければ」。

◆金のトイレとトランプ政権の関係
 スペクター氏はグッゲンハイム美術館のブログに「トランプ時代のマウリツィオ・カテラン『金のトイレ』」という記事を寄せ、以下のように自身の見解を述べている。

「排泄物と芸術の関係式は、労働と価値の関係に疑問を抱く新マルクス主義者の思想家によって長く掘り下げられてきた。経済的見地から拡大すると、富裕層と貧困層との間には、ますます大きくなっている亀裂があり、私たちの文化の安定を危うくしている。カテラン氏が『99パーセントのための1パーセントの芸術』と呼んだものを作成することによって、この事実を明確に述べている。金のトイレは、過度な富のための暗号であり、グッゲンハイムの個室で、男女共用のバスルームに備え付けられていた。芸術と自然との対話の機会を得ようと、10万人以上の人々が、列をなして忍耐強く順番を待っていた」。

「彫刻がとても大きな共鳴をしたのがトランプ氏の存在だった。アーティストが2015年中頃に彫刻を提案したとき、ドナルド・トランプがちょうど大統領選出馬を発表した時のこと。当時はこの名誉ある金箔のタワーの経営者が勝利するとは思いもよらなかった。この彫刻が9月15日に展示が終了する際、トランプは就任して238日目だった。スキャンダルに彩られ、私たちの惑星を危機にさらしている気候変動の拒否に加え、無数の人権擁護の計画的な巻き返しによって定義された頃のことである」。

 なお、芸術的には、ニューヨーク・ポスト紙の表紙に「我々はナンバーワン(そしてナンバーツー!)」という大見出し(ナンバーワンは俗語で小便、ナンバーツーは大便を指す)の記事や「グッゲンハイムがあなたにアメリカの上に大便して欲しがっている」という記事が出たときに、作品は受け入れやすさや名声の頂点に達したという。

Text by 鳴海汐