英語が米語化していることが判明 それを終わらせるのはトランプ大統領?

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 イギリスから世界に広まり、母国語として話される言語のトップ3に入る英語だが、母国イギリスの「英語」はアメリカの「米語」に侵食されつつあるらしい。

◆広がる米語化
「英語」は「英国の言語」という文字通り、もともとはイギリス発祥の言語だ。アメリカで話されている言葉を区別したいとき私たち日本人は「米語」などと書く。本国のイギリスでは冗談で、米語を指して「あれはEnglishじゃないよ、Americanだよ」などと言ったりする。しかし、その「American」が今や英国英語を凌駕しつつあるというデータが明らかになった。

The Fall of the Empire: The Americanization of English」(「帝国の陥落:英語の米語化」)と銘打たれた調査を行ったのは、ニューヨーク大学など複数の教育機関の研究者チーム。7月13日付けのガーディアンによると、調査では、1800年から2010年の間に出版された本の電子書籍1500万冊と位置情報付きのツイート3000万件以上を分析し、「語彙の違い」(例えば「ナス」は米語「eggplant」、英語「aubergine」。酒屋は米語「liquor store」、英語「off-licence」など)と「スペルの違い」(例えば米語「traveling」と英語「travelling」など)を探した。

 分析結果は地域差があったものの、歴史的にこれまで英語が優勢だった西ヨーロッパの都市で、語彙の面で米語からの影響が著しく見られたという。また、イギリスを含むヨーロッパのほとんどで、米語からの影響はスペルよりも語彙が強かった。つまり、イギリス人は時によって米語の語彙を使って何かを表現することがあるにしても、スペルを米語式につづることはあまりないということだ。ただし一方で、かつてイギリスの植民地だったイギリス連邦の国々(例えば南アフリカやオーストラリア、ニュージーランドなど)は、米語よりも英語が優勢だったという。

 研究者らはこうしたヨーロッパを中心とした米語化の原因は、「テレビや映画業界がアメリカ優勢だから」としている。ただし、調査の対象となったツイッターはユーザーが「比較的若くて教育水準が高く政治的に活発な人たち」であり、書籍は「通常、文化的エリートが書くもの」であるため、米語化がこうした層に強く見られる傾向である可能性にも言及している。

 英語の米語化については、書籍『That’s the Way It Crumbles』(「崩壊の仕方」)も最近発売されている。米ニュースサイト『クオーツ』はこの書籍が、「アメリカの文化面や技術面での強さの目の前では、フランス語やドイツ語、イタリア語、さらにイギリス英語までもが、その影響を受けずにはいられない」と主張していると伝えている。

◆米言語学者は「米語の時代は終わった」と反論
 ただしクオーツのこの記事では、「100年にわたった米語の世界言語支配が終わった」と主張する言語学者の考えを主に紹介している。英サセックス大学のリン・マーフィー准教授はブログで、20世紀においては、映画などのエンターテイメント・メディアは制作も配給も難しかったが、アメリカにはその技術も経済もマーケティング力もあったため、米語が広がるのは容易だった、と主張している。しかし21世紀に入り、インターネットの出現で人とメディアのかかわり方が変わると、受け手が受け身ではなく自分の関心のあるコンテンツを自ら探すようになったため、「一方的に受け取るのではなく、言葉を交換し合うようになった」という。

 マーフィー准教授はアメリカ出身なのだが、20〜30年前と比べアメリカに入って来るイギリス英語は多いと述べており、これはジャーナリズムのグローバル化が原因としている。

 マーフィー准教授はまた、トランプ氏が大統領になりアメリカは内側に向いた孤立主義になったため、アメリカの言語や文化が、20世紀の頃のように外へと流れ続けることはないのではないだろうか、と疑問を投げかけている。

◆世界の言語が融合中?
 筆者はイギリス英語が好きなのだが、アメリカからもイギリスからも遠い日本において、米語化しつつある英語を肌で感じてきた。それは例えば、スペルがスペルチェッカーなどではデフォルトで米語に直されてしまう、といった小さなものも含むのだが、ここ数年、イギリスのメディアで目にする英語が米語化していることも気になっていた。

 しかしそれはもしかしたら、筆者が特別イギリス英語を気にしているからであり、マーフィー准教授がアメリカでのケースで主張するように、イギリスでは米語化、アメリカでは英語化が見られているのかもしれない。もっと言えば、インターネットの影響から、英語だけに限らず世界の言語はひょっとして、少しずつではあるが融合しつつあるのかもしれない。

Text by 松丸 さとみ