世界の飢餓を救う?注目集める「昆虫食」 家庭用飼育キット発売、ラーメンにもトッピング

 国際連合食糧農業機関(FAO)が、将来世界的な食糧不足が生じる懸念に対し、その打開策のひとつに掲げているのが「昆虫食」だ。体積当たりのタンパク質の含有量の大きさと育成のための飼料の少なさ、繁殖力の強さに注目した結果だ。食料需給がひっ迫したさい、自給率の低い国は昆虫を食べなければならなくなるかもしれない。海外メディアでも昆虫食が取り上げられる機会が増えており、その内容から現状を探ってみたい。

◆昆虫食をはじめる5つの方法
 博物館で有名なスミソニアン協会はそのメディアで、昆虫食をはじめる5つの方法を紹介している。その一つ目が、家庭で昆虫の培養器を使うというもの。LIVIN farmsという会社が製造販売している培養器はデスクトップサイズで7段の飼育室からなり、昆虫の幼虫は野菜などのエサを食べて成長するに従い下の段に移動する。最下段の8段目に来たところが食べごろだという。

 2つ目はノルディック・フード・ラボという非営利団体が作ったアリのギ酸を活かしたジン。3つ目はAgriProteinという南アフリカの会社による、ハエの幼虫を家畜の飼料にするという取り組み。これは間接的な昆虫食ということになる。4つ目はサンフランシスコとポートランドの会社で、コオロギのプロテイン(タンパク質)を取り入れたクッキーやスムージーを販売している。5つ目は、食用のコオロギの飼育用のカゴを紹介している。横幅が50センチ弱のもので、キットとして売っており、必要に応じて増設できる構造だ。

◆食のサステナビリティを可能にするか
 サステナビリティ(持続可能性)が昆虫食の注目点である。先に紹介した8段の飼育室では毎週500グラムの収穫になるという。ハエの幼虫の飼料利用では廃棄食材が活用できる。昆虫は鳥類などに食べられてしまうため、生む卵の量が多く、短期間で繁殖する。天敵がいない養殖ならばかなりの数に増殖するので、たしかにサステナビリティが期待できる。

 しかし、フォーブス誌は自然界のバランスを崩す危険性について言及している。昆虫食がサステナビリティを実現できない理由として、自然界から捕獲しすぎる危険や、養殖には天然以外のリソースが求められる可能性があること、消費者向けの出荷では加工や冷蔵保存などで新たなエネルギーを必要とすることなどを挙げている。たしかに食物連鎖の下位に当たる種ほど、その変動が自然界全体に及ぼす影響が大きいのは事実だ。

◆昆虫食はタンパク源であり文化でもある
 アメリカと国境を接しているメキシコには、芋虫の一種、甲虫の幼虫やバッタなどを食する文化がある。アメリカへの不法入国が後を絶たない理由と同様に、貧困層の存在も関係があるようだ。アフリカやアジアの国々でも日々の貴重なタンパク源として、あるいはその名残として昆虫食は行われている。

 考えてみると我が日本も昆虫食には歴史がある。CNNが「日本人ですら嫌がる食べ物5つ」という記事で、ハブ酒、イナゴ、蜂の子、サンショウウオ、クサヤを上げているが、イナゴの佃煮は古くから一部の地域で親しまれており、蜂の子は美容と健康に良いとして検索すれば通販で多数ヒットする。井の頭公園にはイナゴと蜂の子の缶詰の自販機まである。

◆コオロギラーメンはいかが?
 ラーメン店の「凪」(通常は煮干しスープのラーメン店)ではコオロギなどの昆虫のエキスやそのものを入れたラーメンを特設のイベント時に提供しており、その模様を通信社のロイターも報じている。コオロギやミールワーム(甲虫の幼虫)が麵に盛られた特製ラーメンやつけ麺は合わせて100杯以上用意されたが完売したという。インタビューを受けたカリフォルニアからの旅行者も楽しめたようで、「ラーメンはいまカリフォルニアで大ブーム。だけど虫入りはまだ早い。5年から10年先だろう」と答えている。

 ところで日本の食料自給率はカロリーベースで30%ほどとかなり低い。地球の人口は増加し続けており、環境の変化や政情不安などで食物生産に影響が出れば、生産国は自国の供給を優先するだろう。食料需給がひっ迫した際、日本も昆虫を輸入することになるかもしれず、今のうちに昆虫食への抵抗を減らしておいたほうがよいのかもしれない。

Photo via Charoenkrung.Studio99/shutterstock.com

Text by 沢葦夫