ケニアのフードテック「Kune」はなぜ受け入れられなかったのか

EMMA KADENYI OMBIMA / Shutterstock.com

◆受け入れられなかった「クネ」
 リーヒトの、ケニア・フード市場におけるギャップ認識とプレシードの資金調達のニュースについては、「ありもしない課題」に対するソリューションであると現地からの批判の声も上がっていた。こうした反応の背景には、ケニア人が食に対してこだわりと誇りを持っている国民であるということのほかに、統計的に「白人(外国人)」が立ち上げたスタートアップの方が、とくに高額な資金調達における圧倒的優位性を持っているという状況があるとクオーツのチク・キメリア(Ciku Kimeria)は分析する。2020年時点のデータで、100万ドル以上の資金調達を達成した現地創業者がリードするスタートアップはたったの6%であった。多くの外国人たちがケニアでの滞在歴がない(浅い)なかで創業するケースも少なくない。批判に対して、リーヒトは自分の「3日間の調査からの課題認識」に関するコメントが裏目に出たことに関して謝罪しつつ、インフラや人材への投資に資金が必要であると説明していた。当初批判の声を上げていた人々は、ツイッターなどのウェブメディア上で、今回の閉鎖に関して「当然だ」というような反応を示している

 クネの失敗は、一見、創業者の傲慢さが仇になった事例のように見える。しかし、実際はケニアのフード事業における新市場創出の余地がないということではなく、クネが説明するようにアセットヘビーな事業展開において、資金繰りが想定通りにいかなかったというのが本質的な閉鎖の原因だと考えられる。ナイロビなどの都市は先進国のようなインフラやサービスが展開しつつあるが、インフォーマル経済が普及し、かつ政策・ガバナンスなどパブリック・セクターにおける課題も多く、たとえばシリコンバレーなどの環境と比べて、より多くの事業コストがかかることが想定される。加えて、スタートアップの失敗自体は、珍しいニュースではない。一方、「白人・外国人」スタートアップ・創業者というラベリングによって、批判が激化するという事実は残念であるともいえる。資金調達における優位性は否定できないものの、彼が「白人・外国人」であることと事業モデルの成功は直接的には関連しない。また、外国人でも現地のスタートアップエコシステムや人々に貢献する方法はあり、それを成功させている人々が存在するのも事実だ。

 植民地主義の歴史と、いまも続く植民地主義が生んだ構造的な課題を抱えるケニアや、ほかのアフリカ各国において、「白人のプロジェクト」と現地の反発という二極的な対立関係を前提においた論調は、わかりやすいストーリーを形成する。しかし、個別の事例やそれぞれのニュアンスを理解しない限り、対話や和解は生まれずにさらなる分断を生む。クネをめぐる一連のストーリーは、その危険性が感じられる事例である。

【関連記事】
アフリカのトップベンチャーCEO、元社員らから告発 エコシステムの脆弱性も露呈
アフリカのテックベンチャーが抱えるエコシステムの課題と「戦略的ジレンマ」
南アフリカのゴースト・キッチン事情

Text by MAKI NAKATA