波紋呼ぶ米公共ラジオ看板パーソナリティの退社 その背景とは

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◆POCジャーナリストが連続退社
 ATCの共同ホストの一人であるシャピロは、コーニッシュ退社の発表を受けて自身のツイッターでコメントを発信。20年来の友人であり、共同ホストの退社を惜しむとともに、デーヴィッド・グリーン(David Greene)、ルル・ガルシア・ナヴァロ(Lulu Garcia-Navarro)、ノエル・キング(Noel King)、シュリーン・マリソル・メラジ(Shereen Marisol Meraji)など、看板番組のホストを務めた同僚が次々と退職していることは、NPRの危機であると示唆した。グリーンは白人男性で、ほかはPOCの女性だ。

 ヴァージによると、NPRはトップ人材の流出という課題に直面している。看板パーソナリティだけでなく、POCスタッフを含むさまざまな役割の人々がNPRを退社しており、毎週のように「退職のお知らせ」のEメールが飛び交っているという。同記事では、NPRのCEOジョン・ランシング(John Lansing)が社員宛に送信したEメールの一部内容を公開。ランシングはコーニッシュの業績を讃えるとともに、人材確保は採用だけでなく人材開発と維持にも依存していると述べ、スタッフのキャリア開発・昇進などに関して、全社会議で議論したいとの意思を伝えた。また、記事では4名のNPR関係者(現職および退職したスタッフ)への取材を踏まえ、NPRの人材流出の要因は、より魅力的な給与や創造の自由度などという観点で、より多くの競合が存在していること、NPRが旧態依然的な組織であることなどが挙げられると分析している。また、とくにPOCのジャーナリストが、公共放送として多様な大衆に対しての発信を行うという使命に対して、NPRは必ずしも誠実でないと感じる側面もあったようだ。

 さまざまな外部の憶測に対して、NPRも黙っているわけではない。同社のチーフ・コミュニケーション・オフィサーであるイザベル・ララ(Isabel Lara)は、一連の波紋の動きに対して、ツイッターで発信。NPRは米国トップのオーディオジャーナリズム団体であるとした上で、非営利団体として、営利団体と同様の給与支給はできないとも加えた。同時に、NPRの退職者がほかのメディアのポッドキャストをプロデュースしていることを称え、いわゆるラジオ局以外にキャリアの選択が多様化している現状にも触れた。

 また、マイノリティ人種のスタッフが相次いで離職している問題については、NPRニュースのメディア担当であるデーヴィッド・フォルケンフリック(David Folkenflik)が記事を投稿。離職関連の事情に詳しい12名のスタッフへのインタビューの結果、NPRはPOCの人気ジャーナリストを引き止めるのに苦戦しているようだとした。人種やジェンダー間での報酬格差の問題、契約交渉における無益な議論といった課題が存在しているようだ。CEOのランシングは就任以来、NPRにおける人材確保、ストーリー選定、そしてオーディエンスの多様化のニーズを「北極星」として優先事項に掲げてきた。一方でメディア業界が変化し、多様なキャリアの選択肢が生まれたことは、優秀なジャーナリストやパーソナリティを引き止めることをより困難にしているようだ。

 NPRの米国のオーディエンス、そしてインターネットでつながっている世界のオーディエンスがより多様化し、さらなるリプレゼンテーション(多様な社会の反映)が求められている。そして、インターネット配信のみのポッドキャストを含むネット・メディアの選択肢が広がり、業界とその権力構造が変化しつつあり、ジャーナリストのキャリアがより流動化している。コーニッシュの転職はメディア業界のいまを象徴する出来事にほかならない。

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Text by MAKI NAKATA