EUがギグワーカー保護へ、最低賃金保障など 宅配・配車アプリの労働者

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 ギグエコノミーで働く人たちが増加し続けるなか、その労働条件の改善に向け、欧州連合が新たな計画を立てている。そこではじつに数百万人もの労働者が受益者となる可能性がある。ただし、現在請負業者の労働力に依存しているフードデリバリーや配車サービスのデジタルプラットフォーム企業にとって、この新規則は新たな課題を突き付けるものとなりそうだ。

 12月9日に概要が発表されたこの規則案は、配車サービスのウーバーやフードデリバリービジネスのデリバルーなど、アプリベースの事業を展開する企業で働く人たちの労働者としての地位を明確化することを目的とし、そこで労働者管理に使用されるアルゴリズムを監視するルールも追加される見通しだ。

 ギグエコノミーで働く人たちとそのプラットフォームは、既存の雇用法の隙間のグレーゾーンに位置している。27ヶ国が対象となる今回の新たな措置は、このグレーゾーンの解消を目的としている。ただし発効までには数年を要する見通しだ。

 アプリベースのギグワークのプラットフォームは、昨今のデジタル経済のもとで急成長を遂げた。とりわけ新型コロナのパンデミック下において、フードデリバリーサービスの需要が急増。結果としてこれらのアプリが、何百万もの人々に短期的な仕事をもたらしたことは事実だ。しかしこの業界の急成長が従来型の労働モデルやビジネスモデルを揺るがし、世界各地で競合企業や規制当局との対立が生じた。ギグワークが持つフレキシビリティは多くの人々にとって魅力的だが、一方でそこで働くワーカー側からは、経費を差し引き、待ち受け時間を考慮すると受取額が法定最低賃金を下回るとの不満の声も上がっている。

 欧州議会の承認を前提として施行されるこのEU新規則のなかでは、そこに規定された2つ以上の基準に当てはまるプラットフォーム企業は「雇用者」と定義される。また、その企業で働く人々は最低賃金保障の対象となり、有給休暇、年金、失業手当、疾病手当の受給資格を持った「従業員」として新たに位置づけられることになる。

 ここでの基準には、具体的には次の内容が含まれている。まず、アプリ側によって賃金水準が決定されているかどうか。アプリ側が勤務実績を電子的に監督し、労働時間の選択や仕事の受諾、下請け業者を使用するかについての、労働者側の選択の自由を制限しているかどうか。労働者の身だしなみや顧客対応に関する指示をアプリ側が出しているか。あるいは、労働者が独自のクライアント層を確保したり、ほかの事業者のために働いたりすることをアプリ側が制限しているかだ。

 フードデリバリー・配車大手のウーバーは「当社としては労働条件の改善に取り組んでいる」と主張する一方、今回のEUの提案は「数多くの雇用を危険にさらし、パンデミック下で苦境に立たされる中小企業を壊滅させ、ヨーロッパ中の消費者を支えている重要なサービスに損害をもたらすもの」との懸念を表明している。

 同社は「EU全域を対象としたあらゆる規則は、現在の私たちにとってもっとも価値の高い、ドライバーや宅配業者らの持つフレキシビリティを損なわないことを前提とすべきで、その上でプラットフォーム側がより充実した保護の仕組みと利益をもたらせる内容であるべきです」とコメントしている。

 アムステルダムに本拠を置き、グラブハブなどのブランドを25ヶ国で展開するジャストイート・テイクアウェイ社は今回の提案について「歓迎し、完全に支持します。この新規則によってヨーロッパ中の企業に透明性のある公平な競争の場がもたらされることを望んでいます。当社によって、労働者の権利を犠牲にすることなくフレキシビリティを確保することは可能だと証明されています」と述べている。ほかのフードデリバリープラットフォームとは異なり、同社の配達員は同社のスタッフとして直接雇用されている。

 EUの行政府に相当する欧州委員会によると、欧州大陸では現在約2800万人がデジタルプラットフォームを用いた自営業者として働いており、その数は2025年までに4300万人に達すると推定される。今回の新規則によって、そのうち410万人が新たに企業の従業員と分類されると同委員会は予測している。EUはこれまで、労働者の権利保護からオンラインの安全性確保にいたるまで、ハイテク企業規制に関するグローバルリーダーとしての役割を担ってきた。

 欧州委員会は、プラットフォーム企業側は新規則が定める分類に対して異議を唱えることも可能だが、雇用主ではないことを自ら証明しなければならないという見解を示した。

 欧州委員会で雇用・社会権を担当するニコラ・シュミット委員は、ブリュッセルでの記者会見の場で「宅配・配車のプラットフォーム業界の今後の成長を止めたり、妨げたりする意図はまったくありません」とした上で、「今回の新規則は、これらの仕事の労働の質を保証するためのものです。この新たな業界が、質の低い仕事や不安定な仕事をもたらすだけになってはならないのです」とコメントしている。

 今回提案されたEU規則は、欧州のギグエコノミー企業にとっては新たな打撃となる。ここまですでにスペイン、オランダ、イギリスにおいて、フードデリバリーの配達人と配車サービスのドライバーを自営のフリーランサーとはみなさず、従業員としての地位を与えるよう義務付ける新法ないしは裁判所の最新の判決が出ている。

 この問題に関しては、欧州地域各地で争われた100以上の裁判において、ほとんどの裁判官らが「独立請負業者は従業員である」との裁定を下してきた。今回の規則案の作成にあたっては、欧州委員会はこれらの判決も考慮している。

 欧州とは対照的に、米国カリフォルニア州ではウーバーやそのほかのアプリを使ったサービス事業に関し「この業界に従事するワーカーたちを従業員とみなすべきではない」という業界側の主張が認められてきた。ただしここでも法廷闘争が現在進行中だ。

 欧州委員会はまた、ギグワークのプラットフォーム企業に対して、それらのプラットフォームが労働者管理に使用しているアルゴリズムの透明性をいま以上に高め、業務割り当てと支払い実施方法をより明快にするよう求めている。同委員会は、そのアルゴリズムを人々の目で監視し、そこで働く労働者たちが自ら決定権を持てるようにすべきだと主張している。

 スペインで事業展開する外国ハイテク企業のプラットフォームは、ギグワーカーを直接雇用する代わりに一時雇用労働者を派遣する人材派遣会社を利用し始めた。

 スペインでバイク配達を行うギグワーカーのセバスティアン・オノラータ氏にとって、今年施行されたスペインの新法は政府が約束した通りの利益をもたらさなかった。同氏に言わせれば、この新法はフードデリバリーのライダーだけを規制対象にしており、アマゾンの宅配ドライバーなどほかの業者は対象としておらず、公平性に欠けるという。

 フリーランス・ライダー協会のスポークスマンも務めるオノラータ氏は、過去には社会保障費を払った後の1ヶ月の手取り額で1600ユーロ以上を稼いでいた。それがいまでは、良い月でも900ユーロが精いっぱいだという。スペイン南部グラナダ市在住の同氏は、ヨーロッパ全土で配達員に関する同様の規制が施行されること自体には賛成だが、欧州委員会の新施策がスペインでの規制と同様の悪影響をもたらす恐れがあると懸念している。

 オノラータ氏は「私たちが希望していたのは、従業員でもなく、完全なフリーランサーでもない立ち位置でした。カリフォルニア州のような、中間的な業態を期待していたのです。新法施行以前のスペインでは、法的地位は曖昧であるものの、ギグワークはきちんと収益をもたらしてくれる業態でした。私たちが望んでいたのは、あくまで業界を法の保護の枠組みの中に組み入れることであり、そこでのビジネスチャンスを潰すことではなかったのです。しかしいま、その結果は散々です」と語る。

By KELVIN CHAN AP Business Writer
Translated by Conyac

Text by AP