時間外連絡NG、ポルトガルの新テレワーク法が物議 監視ソフト禁止、光熱費補助…

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 欧州連合加盟国のポルトガルで新たに在宅勤務に関する法律が制定された。その中身は、まるで労働者の楽園のようだ。

 企業は勤務時間外に従業員に連絡することはできない上、従業員宅のガス代、電気代、インターネット代を補助しなければならない。また、上司はデジタルソフトを使用して、テレワーク中のスタッフの行動を追跡してはならないという。

 ただし、ひとつだけ問題がある。それは、法律が機能しない恐れがあるということだ。「新ルールは中途半端で詳細に欠け、実行不可能だ」という批評家もいる。さらに、企業が在宅勤務容認を躊躇することになるかもしれない。

 ポルトガルの大手法律事務所PLMJのホゼ・ペドロ・アナコレータ弁護士は、「この法律はひどいもので、誰のニーズも満たしていません。誰も得をしない……それでは意味がありません」と話す。

 新型コロナウイルスのパンデミックが追い風となり、世界各地で仕事のデジタル化や、より柔軟な勤務体系が推進された。雇用情勢が急速に大きく変化するなか、各国政府はそれぞれの雇用関連法での在宅勤務対応に奮闘している。こうした取り組みの多くはまだ始まったばかりだ。

 昨年3月以降、ヨーロッパでは多くの人が新型コロナ感染拡大防止のため職場への通勤を控えている。

 アメリカと異なり、ヨーロッパでは労働者保護は重要な権利として広くみなされている。たとえば、従業員を解雇する際には多額の退職金が必要になる可能性がある。

 欧州委員会が幅広い在宅勤務への移行を法的に規定する指示を出していないため、各政府の立法対応は不完全で断片的なものとなっている。

 パンデミックの間、テレワークを推奨する国もあれば、ポルトガルのように「要求」する国もあった。ほとんどのEU加盟国では、アプローチは異なるもののテレワークに関する具体的な法律が制定されており、そうでない国も関連法の改正や拡大、または条約を通じて規定している。

 近年在宅勤務が拡大するにつれ、ドイツやフランス、イタリア、スペイン、ベルギーなどの国々ではパンデミック以前から「勤務時間以外は仕事に関わらない」という労働者の「切断する権利」が採用され、いまではスタンダードになりつつある。

 しかしポルトガルはその概念からさらに一歩踏み込み、企業に責任を課そうとしている。新たな法では、「雇用主は不可抗力の状況を除き、勤務時間外に従業員に連絡することを控える義務がある」と規定している。不可抗力の状況とは、予期しないまたは制御できない出来事を意味する。また、8歳までの子供を持つ親または介護者は、在宅勤務に適合する職種で本人が希望する場合、自宅で仕事をする権利が認められている。この法律に違反した企業は、違反1件当たり約1万ユーロ(約130万円)の罰金が科せられる。

 ポルトガルの新法は在宅勤務(通称WFH)の欠点をカバーすることを目的としている。技術の進歩により在宅勤務が可能となった反面、8時間の労働時間を過ぎても従業員にアクセスできることから、実質的に時間外勤務が増えてしまうという負の側面もある。その結果、仕事とプライベートの境が希薄になり、孤立感を生む可能性もあるのだ。

 しかし新しい法律に対しては、本来それを保護しようとする人々から懐疑的な声が上がっている。

 ポルトガルの首都リスボンで通信業に従事する37歳のアンドレイア・サンパイオ氏は、法律の趣旨には同意するが、あまりに一般的すぎるため施行は非常に難しいと考える。同氏は、「私たちは、共通認識を持たなければなりません。緊急案件であれば時間外の連絡も気にしないし、それぞれのケースで判断する必要があります」と話す。

 今回の法律はパンデミックが追い風とはなったものの、新型コロナウイルス関連の対策とは関係なく将来的に適用されるよう設計されており、早ければ12月から施行される。

 法案作成の中心となったのは、2015年からポルトガルを治める中道左派の社会党だ。1月30日の新政権の選挙を前に同党は信用力をアピールし、労働者の権利を旗印に流れをつかみたい思惑がある。

 とはいえ、現実的な問題も多い。従業員は終業時刻が過ぎたら会社のメーリングリストをシャットアウトして翌日また元に戻すのか。たとえば金融関連の企業で、ヨーロッパにいながら時差のある香港での動向を知りたい場合はどうしたらいいのか。時差のある地域に同僚がいる場合はどうするか。

 常時運転の工場用機械に問題が発生し、オフ中のエンジニアの手が必要になったらどうするか。「雇用主サイドは従業員に連絡してはいけない」とあるが、どこまでを雇用主サイドとみなすのか。各部門の監督者か、企業のCEOか。「連絡」の定義は電話、テキストメッセージ、メールのどこまでを指すのか。

 ジュネーブに本部を置く国際労働機関の労働条件専門家であるジョン・メッセンジャー氏は「魔物は常に細部に宿るのです……そして施行にも」と話す。

 国内最大の企業団体であるポルトガルビジネス連盟は新法の制定に関与しておらず、穴だらけの法律だと考えている。同団体の法務部門に所属するルイス・エンリケ氏は「テレワークのルールは柔軟であるべきで、各セクターに合わせて調整したり、雇用主とスタッフが交渉したりする必要があります。状況が異なるものをすべて同じであるかのように扱うことは、現実的ではありません。法律は万能ではないのです」と語る。

 EU加盟国のなかでもっとも経済が低迷する国のひとつであるポルトガルでは、取り締まりや新法の施行が困難になる恐れがある。同国はお役所仕事や司法の遅さ、そして公共サービスの質が低いことでも知られており、不満の声がシステムを通過して結果が出るまでにどれだけの時間がかかるのか不透明だ。

 欧州39ヶ国、計4500万人の労働組合員を代表する欧州労働組合連合の分析データによると、ヨーロッパ全域で過去10年間、労働環境などの検査件数が「崩壊」したという。

 2010年以降、検査の減少幅がもっとも大きい国がポルトガルで、2018年までに55%減となっている。

 ポルトガル労働組合のエンリケ氏は「野心的で進歩的な法律ですが、それを取り締まる手段がまだ確立されていないという現実に直面しています」と話す。

By BARRY HATTON Associated Press
Translated by isshi via Conyac

Text by AP