アフリカのテックベンチャーが抱えるエコシステムの課題と「戦略的ジレンマ」

AfricArena

◆ローカルとグローバル両立のジレンマ
 アフリカリーナのようなエコシステム構築のプラットフォームが、いまのアフリカに欠かせない一番の理由は、アフリカ全土におけるベンチャー・エコシステムはおおむね初期段階にあり、テックベンチャーや、起業家全般が置かれた事業環境は必ずしも良好とは言えないからだ。シリコンバレーなど、欧米の発達したベンチャー・エコシステムにおいては、地域内もしくは国内により多くの起業家が存在し、スタートアップを支援する投資家、エコシステムの構築を助けるアクセレレーターやインキュベーター、さらにはスタートアップ・イベントの数も無数に存在する。そして、戦略的パートナーや買収先となるような大企業の存在、成熟した株式市場の存在など、エグジット戦略も立てやすい環境にある。スタートアップの数が増えれば、地方自治体や国も法整備などに取り組み、スタートアップの事業環境はさらに良好になる。こうした環境がさらなるスタートアップの発生(および失敗)を促進する好循環と成長を生んでいる。

 自国の事業環境が完璧ではない状況において、アフリカの起業家はローカルとグローバルの「戦略的ジレンマ」に直面する。その一つが、本社登記場所に関するジレンマ。自国の顧客を対象に、自国に物理的な拠点を置き、自国でスタッフを採用して事業を運営する場合、自国で登記するのが自然な流れだと言えるが、海外からの資金調達の時点で自国登記がボトルネックになるケースがある。国によって状況は異なるが、アフリカへのベンチャー投資の大半は海外投資家によるもの。アフリカン・プライベート・エキュティ・アンド・ベンチャー・キャピタル協会(African Private Equity and Venture Capital Association:AVCA)の2021年の報告書によると、2014年から2020年の間、アフリカのVC取引に参加した投資家の地域別内訳は、39%が北米(37%が米国)、24%が欧州、22%がアフリカとなっている。全体でみると、海外対アフリカの投資家比率は、約3対1という状況。アフリカの国別の内訳では、9%が南アフリカ、5%がナイジェリア、モーリシャスとエジプトがそれぞれ3%、残り2%がケニアだ。アフリカリーナのパネル討議の一つのテーマが、アフリカの起業家は米デラウェア州で登記すべきかどうかというもの。海外投資家にとってはおおむね「Yes」というのが感覚のようだが、スタートアップのステージや起業家の事業戦略・ビジョンに伴い、判断すべきというのが総合的な結論だ。

 自国市場の規模が限られている場合、どのように市場を拡大するかという選択においても、ローカルかグローバルかという課題が存在する。自国市場を制覇し、隣国への展開を目指すという流れはわかりやすいが、西アフリカ地域の仏語・CFA圏など一部の地域経済圏は別として、隣国へのサービス展開に関しては、法的側面・金融面・ロジスティクス面・コスト面など、さまざまな障壁が存在する。同時に、野心のあるスタートアップ起業家は、誰もがグローバル・マーケットを狙っている。とくにテック・ベンチャーの起業家は、次の「シリコンバレー起業家」になること、もしくはユニコーン企業の仲間入りをすることを目指しているケースが少なくない。当然、アフリカにおいても起業家は同様の野心を持っている。アフリカ発のグローバル・スタンダードは、アフリカの若き起業家が抱く当然のビジョンでもある。

 一方、アフリカの起業家が置かれた事業環境に対する追い風の動きもある。その一つが、セネガル、チュニジアを筆頭に、整備が進んでいるスタートアップ法だ。アフリカリーナでも、スタートアップ法に関してはしばしば議論された。南アフリカでも、スタートアップ法整備に向けての動きが数年前に発足し、今年、ラマポーザ大統領に対して直接の働きかけに成功した。今後もロビー活動を継続し、数年以内の法整備を目指している。また、今年1月に運用開始したアフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)も一つの追い風となりうる。AfCFTAはまだ本格稼働しているとは言えないが、近い将来AfCFTAの運用が本格化し、アフリカ各国のビジネス取引の障壁が下がることは、多くのアフリカのスタートアップにとって新たな市場獲得の機会となる。

 エコシステム構築には時間がかかる。しかし、アフリカの起業家たちはその構築スピードを上回るかたちで、課題解決を打ち出す新たなプロダクトとサービスを生み出し続けている。アフリカのテックベンチャーのエコシステムは気がつかないうちに世界が無視できないものに成長するはずだ。

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Text by MAKI NAKATA