外資系テック企業の“中国撤退”が相次ぐ理由

Ng Han Guan / AP Photo

 アメリカのヤフーが中国市場から撤退する。ビジネスや法律をめぐる環境が厳しさを増している現状を受け、11月1日をもってサービスを停止した。

 データ収集や保管についての厳しい規制をともなうデータプライバシー法の施行を受け、外資系テクノロジー企業は中国本土からの撤退もしくは事業縮小を行ってきた。

 巨大な市場に居続けることから得られる利益よりも、規制の不透明性や風評被害のリスクを重く捉えた結果である。

◆新たに中国での事業縮小や市場からの撤退を決めた外資系テクノロジー企業
 11月2日、ヤフーは1日をもって中国でのサービスを停止したと発表した。ヤフーが運営するウェブメディア『エンガジェット』中国版では、コンテンツの更新停止を伝えるポップアップが表示された。

 ビジネス上のネットワークを構築するためのプラットフォームであり、マイクロソフトの傘下にあるリンクトインは10月、中国版ウェブサイトを2021年内に終了すると発表した。その後は、ソーシャルネットワーク機能のない求人掲示板に移行する予定だという。

 人気オンラインゲームのフォートナイトを運営するエピック・ゲームズもまた、中国でのサービスを11月15日に終了すると発表した。フォートナイトは中国最大のゲーム会社テンセントとの事業提携により、中国でのサービスを開始していた。同社はエピック社の株式の40%を保有する。

◆中国からの撤退が相次ぐ理由
 11月1日に中国で施行された個人情報保護法は、企業に対して収集する情報量に制限を課し、その保管方法についても基準を定めるものだ。データの収集、利用または共有について企業はユーザーからの同意を得る必要があり、データ共有を止める方法をユーザーに提供することが義務付けられている。さらに、企業がユーザーの個人情報を外国へ送る場合には事前に許可を得る必要がある。

 この新たな法律によりコンプライアンスにかかる費用は膨らみ、中国で事業を行う欧米企業にとって不確実性は増している。規則を軽視しているとみなされた場合、企業には最大で5000万元(約8.8億円)もしくは年間収益の5%相当の罰金が科せられる。

 テクノロジー企業の影響力を抑制することや、一部の企業によるデータ悪用や消費者の利益を損なうような手口についての不満に注意を向けさせることをもくろみ、中国の規制当局はこのような企業への取り締まりを厳重に行ってきた。

 事業の縮小や市場からの撤退は、科学技術開発や貿易をめぐる米中対立をも激化させている。アメリカ政府は通信機器最大手のファーウェイなど中国テック企業に対し、中国国軍や政府とのコネクションを理由に制限を加えている。

 アリババのような電子商取引企業にも罰金が科せられている状況に、国内企業にも緊迫感が広がっている。複数の企業が規制当局による取り調べを受けており、ネットイースやテンセントなどのゲーム企業に影響を及ぼすような厳しい規則が課されている。

◆外資系テック企業が中国で直面しているそのほかの困難
 中国では、「グレート・ファイアウォール」として知られる法律と技術を駆使した厳しい検閲システムが敷かれている。

 政治的に慎重さが求められるような、もしくは不適切であるとみなされる内容やキーワードは、インターネットから排除されなくてはならない。企業は投稿を削除し、公にしにくいキーワードを検索不可能にするなど自社のプラットフォームを管理することが求められる。

 フェイスブックやツイッターといった欧米発のソーシャルメディアネットワークはこれまで長い間、グレート・ファイアウォールによって遮断されてきた。一般的に、中国本土在住の人々がアクセスすることはできない。

 香港に拠点を置くGEOセキュリティーズ・リミテッドのCEOを務めるフランシス・ラン氏は、「中国はインターネット運営者を管理するために、きわめて厳格な政策を採用してきました。すべきことととすべきでないことについて、周知を図ってきました。問題は、大きな責任を負ってまでわずかな利益のために中国で外資系企業として事業を行うべきか、という点だと思います」と語る。

 上海を本拠とするコンサルタント会社、エージェンシーチャイナで研究戦略マネージャーを務めるマイケル・ノーリス氏によると、コンプライアンスにかかる費用は今後さらに増大する見込みだという。

 中国で事業を行う外資系テック企業は、自国内からの圧力にも直面する。一部のアメリカの議員は、アメリカ人ジャーナリストのプロフィールを中国で検閲したリンクトインを批判する声をあげた。また、2007年にヤフーは、中国の反体制活動家に関する情報を中国政府に提供したとして厳しい批判にさらされた。このことにより活動家は後に収監された。

◆中国のインターネット利用者への影響
 グレート・ファイアウォールが敷かれるなか、中国での事業から撤退していった外資系ソーシャルメディアプラットフォームの穴を埋めるべく、代わりとなる中国企業が何年にもわたって生み出されてきた。

 グーグルの代わりに活用されているのが、中国最大の人気検索エンジンのバイドゥである。ワッツアップやメッセンジャーに代わり、ウィーチャットをはじめとするメッセージアプリが利用されている。ツイッターに最も近いミニブログサイトのウェイボーは、5億6000万超の中国人ユーザーを抱える。

 仮想専用線(VPN)を使用してインターネットの通信量や位置情報を隠したり、ウェブサイトへのアクセス制限を回避したりしない限り、中国人ユーザーが利用またはアクセスできるソーシャルネットワーキングやウェブサイトには限りがある。その結果、厳しく検閲された国内の代替プラットフォームに頼ることになるのだろう。

By ZEN SOO Associated Press
Translated by Mana Ishizuki

Text by AP