リモートワークでキャリアを始める新入社員 課題と新たな機会

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 ロンドンを本拠にグローバルテクノロジーとアントレプレナーシップを支援する非営利組織、「ライクマインデッド・フィメールネットワーク」でインターンをしているレベカ・イングラム氏(22)は、リモートワーク中にいくつもの予期せぬ問題に直面した。自宅オフィスの環境が適切に整えられていない、業務中に母親が何度も電話をかけてくる、ビデオ通話中に犬が吠えるなどだ。

 この状況は、新型コロナのパンデミック下で在宅勤務を経験した人なら誰でも思い当たる内容だ。ただしイングラム氏は、過去一年半の間に初めて就職した多くの若者たちと同様、これまで普通のオフィスで働いた経験がまったくない。その彼女の目には、リモートワークは通常のオフィスワークに比べて「格段にフォーマルさに欠ける」ように映っている。

 イングラム氏は、「もちろん自分は働いてはいるのですが……その場所が自宅なので、少し妙な感じですね」と話す。

 2020年の新卒者の多くは、仕事の見通しが不透明ななか、パンデミック下で混乱をきわめる各業界に飛び込んだ。一部では、企業側がインターンシップをキャンセルする、あるいは雇用を完全に凍結するなどして、就労機会を失った若者もいた。一時期の厳しい行動制限が多くの地域で緩和され、仕事自体は以前よりも見つけやすくなったが、すべての業務が通常に戻ったとは言い難い。

 そして何よりも、若い世代の労働者たちの多くは、自分の寝室を兼ねた自宅オフィスに閉じこもることによって多くの機会を逃していると感じている。そんな彼らの願いは、毎日同僚たちとより多くの社会的交流を持ち、友人関係を築き、自分の成長を促すメンターと出会うことだ。

 ニューデリーに本社を置くメディア企業「インディア・トゥデイ」の制作部門で研修生として働くソーヒニ・セングプタ氏(22)は、学校で学んできた内容を生かせるため、仕事に慣れること自体は難しくなかった。しかし、仕事をする上で他者との一体感が不足していると感じている。

 セングプタ氏は、「職場内のビリヤード台で皆が楽しんだりしている様子の写真を、会社のウェブサイトで見ていました。でも私自身、そういう体験をまだ一度も味わったことがありません」と話す。

 ノッティンガムに本社を置くPR会社「タンク」でアカウントエグゼクティブとして働くアナベル・レッドゲイト氏(25)は、今年2月に現在の職務に就いた。2、3ヶ月前にパンデミック下の行動制限が緩和されはじめて以来、彼女は仕事の後に同僚と飲みに行くようになった。現在、同社は時差出勤を導入してオフィス業務を再開しようとしている。

 これまで社交的な職場の雰囲気を待ち焦がれてきたレッドゲイト氏は、「PRの仕事は一人一人が独立して働くことが多いので、同僚と過ごせるオフィス内の雰囲気にワクワクしています」と話す。

 ワシントンDCを拠点にヘルス関連分野の記者として働くマヤ・ゴールドマン氏(23)は、リモートワークでキャリアをスタートするにあたり、オンとオフの切り替えに苦労してきた。ゴールドマン氏は、「わからないことがたくさんありました。夜、どのタイミングで終業報告を上司に入れるべきなのか、昼食は何時に、また何分かけて良いのかなど。普通にオフィス内で働く前提であれば、上司が決めてくれるはずなのに」と話す。

 雇用する企業側も、新規採用のリモートワーカーたちが心地よく働けるよう支援が必要だと感じている。

 アトランタのマーケティング企業「トレベリーノ/ケラー」では、毎朝9時に従業員らが「スポティファイ・アット・ナイン」と呼ばれるミーティングに参加する。そこでは参加者全員が同じ曲を聴き、スラック上で感想を述べ合う。また、複数のブッククラブを主催し、TEDトークをリモートで視聴したりもしている。

 同社の共同設立者のディーン・トレベリーノ氏によると、それらの活動はリモートワーク中でも自分が会社の一員であることを、毎日目を覚ますたびに実感してもらうための施策だという。

 ニューヨークで金融に関する教育サービスを提供する「ノップマン・マークス・ファイナンシャルトレーニング」の CEO、リザ・ストライフ氏は最近、パンデミック下で初めての対面イベントとしてバーベキューを開催した。

 同社の従業員の多くが、このとき初めて実際に直接顔を合わせた。参加者のなかで最年少の二人が、「本当に素晴らしい機会です」とストライフ氏に感謝を伝えた。このうち一人はインターン生で、もう一人はインターンシップを経て最近入社したばかりの社員だった。

 多くの従業員たちが不足していると感じがちなメンターとの出会いについては、企業側も、従業員がメンターの指導を受ける機会を活用できるよう支援を行っている。

 トレベリーノ/ケラー、ライクマインデッド・フィメールネットワーク、ノップマン・マークス・ファイナンシャルトレーニングの3法人はすべて、新人と先輩社員で構成されるグループを作り、パンデミック下でも新人が必要とするアドバイスや自社に関するチュートリアルを受けられるようなバディプログラムを実施してきた。

 一方で、必ずしもすべての新人たちがリモートワークで貴重な機会を失っていると感じているわけではない。毎日オフィスに通勤する必要がないため、仕事と私生活が両立しやすいと感じている者も多い。

 イギリスに本拠を置く人材会社「ファインド・ユア・フレックス」の研修生であるマシュー・トール氏は、リモートワークには別の利点があると考えている。具体的には、ネットワーキングがそれまでよりも快適に行えるということだ。トーレ氏には少しシャイな部分があり、以前はリアルでの対面イベントで苦労を重ねてきた。しかしオンラインのネットワーキングにシフトしたことで、はるかに成果が上がるようになってきている。

 トーレ氏は、「オンラインでのネットワーキングは自分からすれば、リアルなシーンで直接会話を交わすよりもはるかに簡単です」と言う。

 パンデミック下の規制が緩和されていくなかで、少なくとも労働時間の一部に関しては、従業員が引き続き在宅ワークを行うことに多くの企業が同意すると予想される。

 コロンビアビジネススクールのメイベル・エイブラハム教授によると、膨大な数の若い労働者たちがリモートワークでキャリアを開始することで生じる影響については、データがまだ得られていない。その上でエイブラハム氏は、一部の若い労働者たちと、リモートワークへの移行に四苦八苦してきた上司や先輩との隔たりが発生する可能性を指摘している。

 また、リモートワーク化が多様性の観点から人々にさらなる機会をもたらすという意見がある一方で、実際にはリモートワークが職場内の不平等を高める可能性があると同氏は警告する。なぜなら、多様なバックグラウンドを持つ遠方在住の新人と、オフィス付近に居住し、最終的にはオフィス勤務に復帰する既存の従業員コアグループという2つのグループ間に大きな格差が生まれる恐れがあるからだ。

 エイブラハム氏は、「結果としてコアワーカーのグループの均質化が進み、男性や白人の割合が高まることなどが予想されます」と話す。

 一方、大手コンサルティング会社の「プライスウォーターハウスクーパース」でプロダクト主任を務めるスニート・ドゥア氏は、リモートワークにはプラスの影響もあると考えている。具体的には、若年労働者のレジリエンスと適応能力が向上すること、また、リモートワークを可能にするための技術革新が促進されることだ。

 ドゥア氏は、「想像しうる限りの最大級の利益が私たちの社会にもたらされます。それは現時点で私たちが予想する以上のものかもしれません。いまから3年後、5年後には、驚くようなイノベーションが起きているでしょう」と語る。

By UROOBA JAMAL Associated Press
Translated by Conyac

Text by AP