不況時に事業を始める、立て直す4つのヒント

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 やはり好景気の時期こそが、事業の立ち上げに最適な時期なのだろうか?おそらくそう考える人は多いだろう。しかし実際のところ、ここ数十年間でもっとも良く知られたビジネス界のサクセス・ストーリーのいくつかに目を向けると、そこでは不況下で練られた優れたアイデアが元になっている。

 その一部を挙げるなら、CNN、ウーバー、エアビーアンドビー、決済サービスのスクエアなどが好例だ。もちろんこれ以外にも、数多くの例がある。

 新型コロナウイルスの影響により、既存の企業は自社の改革を迫られている。だが、今日もっとも大きなビジネス上の障害の一部が、革新的ソリューションをもたらす新興企業にとってむしろ格好の成長材料となりうるのだ。

 コンサルティング企業のアクセンチュアが実施した昨年11月の分析によると、パンデミックによって消費者行動は急速に変化し、3兆ドル以上の損失がもたらされる、あるいはその金額の一部が、この機会を活用するための最善の準備を整えた別企業の利益へと転化することが予想されている。

 以下では、この困難な時期にビジネスチャンスを見出し、それを確実につかみ取るための方法を紹介する。

◆マーケットの変化にいち早く適応する
 ジョナサン・スレイン氏は、2008年のリーマンショック後の大不況の時期に、個人向けのトレーニング・フィットネススタジオのオーナーを務めていた。しかしこの分野への支出は、家計が悪化した際には多くの人々が真っ先に切り詰めるものだと言ってよい。

 スレイン氏は、「我々は一体どうすればよいのか、社内で話し合いを重ねて不況の時期を過ごしました」と話す。事業運営と給与支払いに必要な資金の確保を迫られ、最終的に事業継続のために義母から借金をした。

 給与支払いのため、スレイン氏は2週間ごとに、義母から新たな借金をする必要に迫られた。同氏は、「耐え難いほど苦しい借金依頼の電話をかけた回数は、10回を数えます」と言う。借入額は合計25万ドルにも達したが、最終的には何とか義母に返済することができたという。

 現在はオハイオ州でビジネスコンサルタントを営むスレイン氏は、共著という形で一冊の本を書き上げた。そのタイトルは、「不況を最大活用する:成功したリーダーたちは、いかに準備し、不況下で業績を伸ばし、その後の富を築いたのか(Rock the Recession:How Successful Leaders Prepare for, Thrive During, and Create Wealth After Downturns)」。このなかで自身の失敗から学んだ教訓と、友人で共著者のポール・ベレア氏から引き出した見識を踏まえ、不況下でも利益を出せる戦略を語り伝えている。

 スレイン氏は同書のなかで、「私の失敗から学んでください。私と同じ失敗をしないでください。私ではなく、ポールを模範にしてください」と書いている。

 一方のベレア氏は、リーマンショック後の不況下に冷暖房関連企業のオーナーを務めていた。

 不況下においては、多くの顧客が新たな冷暖房ユニットを購入するよりもサービスの購入を選択するとすでに予測していたベレア氏と会社の経営陣は、それまで会社事業の80%を占めていた冷暖房ユニット販売事業を大幅に縮小し、事業の80%を冷暖房サービスの提供に転換した。

 スレイン氏によると、この迅速な方針転換の結果、ベレア氏と同氏の投資チームは5年後に初期投資額の80倍以上の金額にて事業を売却することに成功したという。

 ここでの教訓は、親戚から借金するよりも、マーケットの変化に機敏に対応するということだ。

◆あなたを悩ませている問題の解決策を探る
 これまで複数の事業を立ち上げてきた起業家のトレバー・ブレイク氏によれば、多くの事業の成功は、それが優れたインスピレーションによるものか、あるいは絶望的な状況がもたらした結果かは別にして、そこにある問題を解決しようとする努力によって達成されたものだという。

 ブレイク氏は、「起業に成功した人々は、これまで自身を悩ませてきた問題を明確化し、まだその解決策を誰も提示していないことを認識した上で、その解決に取り組みました。その結果として、起業に成功したのです。自分にとってストレスに感じることがあるとき、何としてもそれを解決したいと考えます。すると突然、素晴らしいアイデアがひらめくのです。もちろん最初の時点では、どうやってそれを解決できるのかはわかりません。しかし、むしろそこの部分も楽しみの一部です。我々は最終的に、必ず解決策を見出すことができます」と語っている。

 ブレイク氏は、とくに注目に値する2つの例に言及した。1つ目の例に挙げられたサラ・ブレイクリー氏は、従来のパンストの脚の部分を短くカットし、ホワイトのパンツと重ね着した際に見栄えのするファッションスタイルを提案。後に「スパンクス(SPANX)」を発売し、人々のワードローブに新たなバリエーションを加えた。

 2つ目の例のリチャード・ブランソン氏は、英国領バージン諸島で自分を待つガールフレンドのもとへ何が何でも予定の時間通りに行きたいと考えていたが、搭乗予定のフライトがキャンセルとなってしまった。そこで解決策として、自費で航空機をまるごと一機チャーターした。そしてこれが、ヴァージン・アトランティック航空誕生の契機となった。ブレイク氏に言わせれば、これは素晴らしい問題解決の成功例だ。

◆小さな変革の可能性を探る
 スレイン氏によれば、必ずしも大がかりな新コンセプトが必要なわけではなく、既存のビジネスのコンセプトをわずかに修正するだけで十分な場合もある。

「あなたは何も、次代のフェイスブックを立ち上げようと、部屋にこもって真剣に悩むことはないのです。そうではなく、すでに熟知している内容を取り入れながら、あなたが望む未来のビジョンに到達するために、そのビジョンと現在とのギャップをどう埋めていけばよいのか、それを考えるのです」

 おそらくあなたもこれまでに、組織のなかで働き、そこで既存のビジネスモデルに小さな変更を加える作業を実際に目にした経験があるのではないだろうか。それは90度や180度といった極端な方向転換ではなく、5度や10度の、緩やかな方向転換だ。

 スレイン氏によると、宿泊予約大手のエアビーアンドビーの創業者らも、とくにホテル業界に革命をもたらすなどという大胆なビジョンをもって事業を始めたわけではない。彼らはもともと、わずかばかりの副収入を得る目的で、普段使っていない予備の寝室にエアマットレスを一台設置するところからスタートした。

◆必ずしも社員を雇う必要はない
 また、事業を始めるということは、外部から多くの社員を新たに雇い入れることとイコールではない。たとえばブレイク氏は、自身のキャリアのなかで5番目にあたるベンチャー事業を約3億ドルという高額で売却した後、現在、6番目の会社を運営している。にもかかわらず、実際ブレイク氏は、これまでに社員をひとりも雇用したことがない。

 ブレイク氏は、「ほとんどの人は家を買ったとしても、何かの問題に備えて常勤の便利屋要員を空き部屋に住まわせたりはしませんよね。必要が生じたときに、請負業者を雇うのが普通です」と言う。

 ブレイク氏によると、社員なしで事業を始めることは賢明な選択だ。何よりもそのことで、支出が少なくてすむ。同氏が推奨するのは、本当に必要な場合に限り、契約を結んで問題解決のスペシャリストを雇うやり方だ。また請負業者と自前の社員とでは、税務上の処理の仕方も大きく違ってくることを理解しておくことも重要だ。

By HAL M. BUNDRICK of NerdWallet
Translated by Conyac

Text by AP